「・・・・・・・・さみしい」
静かに、物音立てずに隣の彼女がそう言った。空気に何も含ませず、あいさつよりも軽やかに告げたから一瞬何を言われたかわからない。けれど隣に座り、ケロン人より数倍長い足に腕を絡ませながらオレを見る女は真剣そのもの。
「なんか言ったか?」 「聞こえてるくせに・・・・さみしいって言ったんだよ」
気分を害したわけでもないくせに怒ったフリをして、
はぷいとそっぽを向いた。 オレはそれを見ながら、彼女の言った意味を考える。彼女がそんなことを言ったのは初めてだった。会わない日が続いても、ラボに籠もる日が続いても、そんなことは言わない彼女だったからこれが何を示すかわからない。溜め続けた鬱憤か。それとも、オレの謝罪でも求めているのか。
「ねぇ、クルル」 「ん?」 「さみしい」 「……………」 「さみしいよ」
オレに瞳を合わせようとはせずに、それでも顔を膝にうずめながら
は言葉をつむぐ。
さみしい。
それだけ聞けば、なんてかわいそうな言葉だろう。そんなことを言われたって、言ったって、どれだけの人間がどれほどのことをしてくれると言うのだ。見返りを期待した言葉に何の意味がある。それでも彼女は口を開けばその言葉を、まるで呪文のように言い続ける。 さみしいさみしいさみしい。 けれど
の言葉はオレに何も求めていなかった。触れてほしいわけでも、慰めて欲しいわけでも、言いワケも釈明も必要としていなかった。それはまるで義務のように、彼女はオレに言い続ける。
「
……」 「…………ん」 「泣くくらいなら言うんじゃねェよ」
涙で濡れた瞳を隠そうともせずに、
はやっとオレの目を見る。その瞳には同情も哀愁も漂っちゃいなかったけど、少しだけ翳りをおびていた。やれやれと心の中でため息をつきながら、腰を浮かして彼女に近づく。やっと
の瞳に触れると、綺麗な雫が黄色を映した。
「あのなァ、
」 「…………」 「オレはさみしくなんて、ないぜ?」
彼女の言葉の意味を、理解していないわけじゃない。彼女がさみしいわけじゃない。彼女の目に映るオレがさみしいんだろう。
は、涙で一杯の瞳を一度閉じて首を振る。
「違うよ」 「………」 「クルルは今はさみしくないの。でも、でもね?」
ケロロもギロロもタママもドロロも居る今じゃなく。
「わたしもいない昔は、わからないもの」
そうしてきっと意地っ張りなあなたは、さみしいなんて口が裂けても言ったことがないでしょう? だからわたしが、そうしてそんな昔のことを気にしてしまうわたしにも。
さみしい。
今の幸せをかみ締めるように、この言葉をつむごう。
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