「ねぇ、夏美ちゃん」
「うん。何? ちゃん」


陽射しが穏やかで、眠たくなるような午後だった。
二人の少女は陽気につられるように窓辺に並んで座っている。
窓を少し開けるとひやりと風が頬を撫でた。
少し冷たいけれど、のんびりするのにはちょうどいい。
近くで猫がにゃあと鳴いた。



「わたしさ、苺が好きなの」
「うん。おいしいよね」
「ショートケーキの苺とか、そのまま食べるのももちろん好きだけど」
「ジャムとかジュースにしてもいいわよね」
「そうそ。あの赤くて小さい姿がすっごく可愛くてさ」
「苺狩りとか。小さいころはよくママと行ったなぁ」
「そうだよねー。練乳かけるのも好きだけど、やっぱりあの甘酸っぱさも堪らないんだよ」
「すっぱーい!て言っても自然に笑顔になるしね」
「うふふ。そうだよね。苺って不思議だなぁ」



のほほんと が笑うと、夏美もふふふと小さく笑った。
にゃあ、と猫が今度は忙しげに鳴く。
陽射しだけが二人の間でゆっくりと流れた。



「ねぇ、夏美ちゃん」
「なぁに、 ちゃん」
「わたし昨日ね、ケーキに乗せる苺が欲しいなぁって言ったの」
「あら偶然ね。あたしもギロロにそう零してたのよ。最近苺って何気に高いし」
「うん。たぶんわたしはケロロにだったんだけど、それにしても…………ねぇ?」
「そうよねぇ。いくら何でもこれは…………ねぇ?」



にゃあ!
二人の間の緩慢な空気を壊すように猫が鳴く。
顔を見合わせ、今度は窓の外に視線を移す。
そこには何の変哲もない一般住宅の庭には存在してはいけないような、大きな植物がうねうねと蔓を動かし縦横無尽に張っているという、アクション映画さながらの光景が広がっていた。
心なしか、「イーチィゴォゥゥゥ」という鳴き声さえも聞こえる。



『キィーヤァー。ターチケテー!!!!』
『チィ!ケロロ貴様なんでこんなものをっ!!』
『土壌汚染率30%上昇。こりゃ、前の芋より厄介だぜぇ。クーックックッ!』
『軍曹さーん!大丈夫ですかー?!』
『きゃーおじ様!!そんな風に曲がっちゃ駄目ですー!!』



窓越しに聞こえる惨劇から少女二人はそっと視線を外した。
ありえない光景が、わずか数歩の距離で実現している。
直径数メートルに及ぶ巨大苺をたわわに実らせながら、次々に異性人であるカエルに飛び掛るあの植物の名前を地球人である彼女たちは知らない。
いや、知らなくていい。
むしろ夢であればいいとさえ思う。



『だぁってー!!電話したら父ちゃんがいいのがあるって言うからー!!』
『元凶は貴様の父親か!!』
『ケロロ君のお父さんって…………昔からこうだったよね』
『なにをぅ!それを言うならギロロの父ちゃんだって同じようなもんだろー!!』
『五月蝿い!貴様宙吊りにされて恥ずかしくはないのか!自分で蒔いた種だろうが!!』
『クーックックッ!オッサンにしちゃ、ジョークが効いてるぜぇ!』
『冗談じゃないですよぉ!こーなったら軍曹さんごとボクが吹き飛ばして…………!!』



あわれ苺の末路が見えた。
安全圏に非難済みの二人の少女は、もう苺が無事に手元にくることはないなと諦めた。
芋とは違うのだ。あれは潰れる。



「ねぇ、夏美ちゃん」
「うん、 ちゃん」



窓越しの惨劇をしっかり視界から排除し、二人の少女は固く手を握り合った。
このとき二人の気持ちは一つになったのである。



「「ぜったいに、あの二匹の父親だけは信用しないようにしましょう」」



例え次に会うときが来ても来なくても、友好的な態度など取るものかと決心した。

 

 

 

 

 


(06.12.03)ほんのちょっとエースネタバレ。きっと二人は一緒に嫁ぐんでしょう。そして次週真っ向対決!(嘘)