「もう一回、状況を整理するであります。最初に
殿に会ったのは…………ドロロだったよね」
「いかにも。昨日、
殿が拙者の元を訪れて一言だけ呟かれたのござる。『もうすぐだよ』と」
「うん。もうすぐ、ねぇ…………」
「次は俺だ。今朝、
は俺のテントに入り込んでいた。何をしている、と聞けば『準備。ギロロくんには先に謝っておく。ごめんなさい』と言って出て行った」
「準備でありますかー。しかもギロロに謝罪とは…………なんとも難解であります」
「…………次はオレかぁ?昼ごろ、来たぜ。なんでもモアのやつを探してたらしい。居場所を教えてやったら、ありがとうと跳ねてった。何をするんだ、と聞いたら秘密とかぬかした…………。そんで最後にこう言った。『今日は、みんなと一緒に居たほうがいいよ』」
「それでクルル曹長もここにいるのでありますか。そういえばモア殿はどこ行ったんでありましょう?」
「そんなことより、次は貴様だろう」
「あーそうでありました。我輩が会ったのはつい二時間ほど前のことであります。
殿がリビングでくつろぐ我輩のところに来て、隣に座ったのよ。んで、どうしたのでありますかーって聞いたら、『最後だから』ってだけ。ひどく悲しそうに笑うんで、理由なんて聞けなかったんであります」
「そうですぅー。
っち、とっても悲しそうで。ボクが日向家に来たとき、
っちは『待ってたよ』って言ったんですぅ。それでボクがどうしたんですかぁって聞いたら、その小さな箱を渡して『みんなが来たら、開けて。この中には答えが詰まってる。正しくあるはずだった未来があるの』って言ったんですぅ」
「未来、ねぇ」
全員が押し黙って、沈黙する。
ケロロたちが集まったのはつい二時間ほど前のことだった。その間にモアを探したし、
を探した。けれど二人の姿は煙のように掴めず見つけられなかった。その間にクルル曹長がある異変を感知する。基地の中、小型の宇宙船に五人の地球人がいるという。驚いて向かえば、夏美や冬樹、桃華に小雪、睦実までもがそこに横たわっていた。呼吸を確認する。全員が眠らされているだけだった。安堵する。しかしそれも束の間、次に訪れた異変は、この世界全体を大きく揺らした。
「なんで…………」
押し黙り、重く苦しい空気が漂う中でケロロは立ち上がる。それから数歩、その部屋唯一の窓によろよろと吸い寄せられるように歩いた。
へたり、と冷たいガラスに顔を近づければ視界を塞ぐのはたくさんの破片破片破片…………。粉々にされ粉末と化し、そうなりきれなかったものは大きな残骸や土くれとなって、ケロロの視界を覆っていた。
「こんなことに、なってしまったのでありますか?」
ケロロの問いは誰にも答えることが出来ない。
誰もその破片が、あの美しかった地球だなんて信じられない。
あの美しかった地球を残して、逃げてきたなんて思いたくない。
それをしたのが、誰であるかなんて考えたくもない。
全員が小さな箱に縛られるようにそこにいる。中身がなんなのか見当もつかない。
しかしそこに
の何かしらの情報があると思われるのも事実であった。
彼女はどこに行ったのか。
『もうすぐだよ』
(それは、拙者に対する警告だった?)
『準備。ギロロくんには先に謝っておく。ごめんなさい』
(謝ったのは何故だ。お前は夏美を生かしてくれた)
『今日は、みんなと一緒に居たほうがいいよ』
(あんたの異変に気づけなかった、オレは何を見落とした?)
『最後だから』
(何が最後でありますか。なんであんな悲しそうな顔、したのでありますか)
『待ってたよ』
(
っち、ボク、まだまだお話してないこと一杯あったんですよぉ?)
『みんなが来たら、開けて。この中には答えが詰まってる。正しくあるはずだった未来があるの』
彼らは箱を開けられない。もしこれを開けて全てがリセットされるなら…………、そうなればいいと全員が願っていた。一つ一つの破片が繋がり緑の大地が命を吹き返し、青く美しい地球が復活する。そして
が現れて、『驚いた?』と笑うのだ。『冗談だよ』と誰よりも軽やかに、舌を出しておどけるのだ。願望の君は、今でも綺麗に笑ってる。
あの五人が目覚めたら、我輩たちは何を言えばいいのでありますか。
の残した言葉と未来とこの箱を、今はまだ直視したくない。
(あぁ、君は生きていますか?)
(06.11.25) 例えばのお話。全部がなくなれば、誰も悩むことはない。大切なものが残っていれば。