「クラッカーを鳴らしたい」


寝台で寝転ぶ彼女がそう言ったのは、単なる思い付きだったのかもしれない。
けれど傍で雑誌を読んでいた我輩は曖昧に頷いただけだった。彼女の突然の思いつきは今に始まったことではなかった。海が見たいと言えば何時間かけても見に行き、花火がしたいと言えば季節違いなのに執念で見つけ出してしまうような女性だ。だから、それも単なる思い付きと退屈しのぎなのだろうと思った。退屈なこの部屋に流れる空気を少しでも明るく派手なものにしたくて、彼女はもがいているのかもしれない。


「ぱーん!って、凄く可愛い音がするの」
「クラッカーは大概可愛らしい音はしないでありますよ?」
「するよ。わたしが持つクラッカーは、可愛い音がするの。しかも鳩だって出るのよ?」


鳩の出るクラッカー?
そんなものは聞いたこともない。寝転ぶ彼女にようやく視線を移せば「やっとこっち見た」と笑う瞳と目があった。なんだ。冗談か。


「鳩なんてどうやっていれるんでありますか」
「こう、ぎゅっと押し込めるのよ」
「可哀想でありますよ。というか、出す前に死んじゃうじゃん」
「死なないよ。クラッカーには魔法がかかってるの。中に何を入れても、クラッカーを鳴らすとそこに現れるのよ。ちゃんと、元気なままで、現れるのよ」


クルルにだって作れない魔法とやらを本気で信じている は、ベッドから起き上がって我輩の隣に座った。見ていた雑誌を取り上げ、またガンダム?と呆れた声を出す。その声はあまりにも静かに柔らかく鼓膜に響いた。
死なない、クラッカー、魔法のかかった、特別な。


「それなら、我輩は鳩なんかじゃないものをいれるであります」


が困惑気味にこちらを向く。その隙を見逃さずに唇を塞いだ。
たぶんきっとこの唇を離したら、パンチの一発も食らうんだろうなと覚悟しながら我輩は彼女から離れた。だから彼女の右腕が自分に向かう前に、笑って付け加える。


「我輩は、 殿を入れるであります。そしたらどこにだって連れて行って、一生離れずにいられるでありますからな」


飛んでくるはずのパンチは、放心状態の彼女から放たれることはなかった。
先程よりもずっと呆れた顔をして、そのまま真っ赤になる彼女は可愛らしい。
雑誌がぱらりとめくられて、すとんと床に落ちた。

 

 

 


(06.12.10)クリスマスが近いせいか、甘い小説ばっか書いてる。
       アンケートでも甘いのを!って方が多かったので。これでいいか。
       ケロロはナチュラルにキスしそうです。