突然だけれど明日から会えないかもしれない。かもしれないって言うのは私の願望だから、そうなってしまう確率のほうが高いって考えてくれていい。でももし、もし帰ってこれたらあなたに聞いてほしいことがあるの。大丈夫、愛の告白なんかしないわ。懺悔でもない。だからね、覚えていてくれるだけでいいの。「あぁそういえばが何か言っていたな」って。
きっとわたしは忘れているから、あなたに思い出させてほしい。
だって大切な用事じゃないんだもの。大変な任務をこなして疲労も限界に達した頭じゃ思い出せないよ。でも忘れていいものじゃないんだ。思い出して、やらなきゃいけないことがある。
え? だったら今教えろ?
嫌だよ。そしたら意味がないものだから。わたしの任務が終わって始めて価値があるものなの。せいぜい悩んでいてよ、それくらい謎めいていた方が退屈しのぎになるじゃない。
たとえばさ、浦島太郎の話と同じよ。あのお話で唯一の謎は、何故乙姫様があの箱を渡したかってことでしょう。開ければお爺さんになってしまう、恐怖のミステリーボックス。時間軸が地上とは違うってことを理解していたのに乙姫様は浦島太郎を歓迎したの。時間がたって、もう後戻りが出来なくなるのを知っていたのに、真実を隠して無理に引き止めなかった。
あれと一緒だよ。今のわたしは乙姫で、君が浦島ってわけ。
なぜ乙姫様があんな怖い箱を笑顔で渡せたのか、考えてごらんよ。きっとゆうに三日は熟考していられるよ。君のことだから答えなんて出やしないんだろうけど、大丈夫。帰ってきたら教えてあげるから。
あ、もう行かなきゃ。うちの隊長厳しいんだ。一分遅れるごとに訓練が一時間追加されるの。今から任務につくからそんなもの関係ないんだけれど、習慣て恐ろしいね。脳が怯えちゃって早くいけって信号だしてる。ホントに、嫌んなる。でもいかなきゃ。じゃあね。約束、頼んだからね。
ばいばい。忘れないでね。
(彼女の名前が刻まれた墓の前で、何度も何度も最後の会話をリピートする)
(07.10.08) 嘘の誕生日。イコール、嘘が生まれた日。解釈の仕方って自由だから好き。
ちなみに答えは、左上のタイトルっぽいところに。
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