が彼と会わせてもらったのは、もうすっかり事件が落着してしまったあとだった。一夜の内に終結してしまったというその事件は、実は昨日の昼ごろから起きていたらしい。他の地球人同様、操られていたにはまったく思い出せないのだが、いつもの面々がとても疲れた顔をしていたので事実であるのだと考えられた。また事実を裏付けるための、最終兵器だという超巨大像なるものの残骸もあったので、はそれを信じることにした。だから、その事件の主犯とも言えるダークケロロを――大軍曹とか、王とか、そんな呼び名もある――冬樹君や当のケロロから紹介されたときには少し驚きはしたものの、それ以上に妙に納得してしまっていた。敵をそのまま敵として処理しないのが、彼らのいいところだと思う。
「えぇと、こんにちは」
「………………あぁ」
案外無口なのかもしれない。瞳の下に文様があって、色もケロロより深かった。落ち着いた瞳は同じだけれど、印象がなんとなくケロロとは違う。
「こら!殿に失礼でしょー。あいさつされたら、あいさつを返す!」
「軍曹、きっと緊張してるんだよ」
隣でとりなす冬樹君とケロロが妙に仲がいい。もしかしなくても、また友情が深まったのかもしれない。はそう思って、口元だけで笑った。
冬樹君がダークケロロは他の星に行くのだと説明してくれた。
「すぐに?」
は驚いて、急いで聞いた。クルルの機械が出来次第だと、ケロロは答える。
「急なんだね。わたしはまだお話しもしてないのに」
「う………。まぁ、我輩たちもそんな状況じゃあなかったでありますよ?」
「それでもずるい。ねぇ、ダークさん?」
彼は呼び名に少しだけ眉を潜めて、を見る。はにこりと笑った。
「どこか行かない? お話ししながら」
* * * * *
「うわぁ!いい気持ち!!」
人の少ない河川敷では思い切り伸びをする。ぐいっと腕を伸ばすと、体全体がしゃっきりとしてくるので不思議だ。後ろでは斜面に腰を下ろしたダークケロロが、そんなを不思議そうに見つめていた。
「ね、ダークさんもそう思わない?」
わざわざ隣に腰掛けて聞く。ダークケロロは軍曹よりもずっと聡明そうな目をしている。首に巻いたマフラーみたいなマントが、彼の口元を覆っていた。
「割と、そう思えるかもしれんな」
「でしょ? ここはわたしの一等好きな場所なの」
「いっとう?」
「そうだよ。だって」
はそこで少しだけ寂しそうな顔をした。
「もうどこか行っちゃうんでしょ? だったら、一番の場所を知ってもらいたいと思ったの」
伸ばしていた足をは抱くようにして引き寄せる。ヒザに顔を押し付けるようにして小さくなって、背中を丸めた。視線の先では、きらきらと川面が光っている。
「こんな言い方はよくないかもしれないけど、みんなと一緒に、戦ってるとき会いたかったな。そしたらわたしはもっとダークさんのことが知れたし、わたしのことも知ってもらえたのに」
本当によくない言い方だというのはわかっていた。そんなのは、結果がよかったから言える事であり、当事者でもない自分が言ってはいけないことだ。けれど、本当にそう思った。もっと早くに出会えてしまえたらよかったのに。
が拗ねたように黙ると、突然ダークケロロが笑い出した。ハハハハ!なんともハツラツと笑うので、そのなんとも言えない低くて明るい声にどきりとした。
「ハハハ!………………いや、悪い。お前のことを笑ったわけではないのだ」
「え?あ。そなの?」
「いや、お前のことには違いないのか。ただな、本当に」
涙を浮かべて笑っているダークケロロは、落ち着いた口調で話す。ケロロにはない雰囲気で、年上だと錯覚してしまうほどの大人びた所作をして。
「あのへっぽこが言っていた。お前だけはあの戦いに連れて行くことにならずよかったと」
「………………え?」
「勘違いするな。それだけ接戦だったということだ。………………それに、吾も同感だ」
ざっと風が二人の間を通り過ぎた。目を瞑って開くと、ダークケロロがまっすぐに自分を見ている。最初は赤かったのだという深く黒い目に自分が映っていた。
「あんな戦いに出させるくらいなら、鍵のかかった部屋に閉じ込めておきたい。お前はそう思わせる女だ……………」
小さな腕が伸びて、くしゃくしゃになったの前髪を直した。それから立ち上がって、「少し歩こう」とダークケロロは言う。は下を向いて彼の背中に向かって、辛うじて返事をした。真っ赤な顔をどうしようか、散々迷いながら。
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