「あーえっと、今日議題にしたいのはー侵略計画とかじゃなくって、もっと身近なものであります。うん。ぶっちゃけ、
殿とドロロのトラウマ関係についてね」
会議室。ホワイトボードの前に座りながらケロロは全員を見渡して言う。その横でモアが、一体彼の言葉の何を書き留めているのか書記官として働いていた。タママもクルルもギロロもこの議題に反対する声を出さないのが珍しい。
「我輩の見解としては、
殿の来訪によりドロロのトラウマ回数とか頻度とかが緩和されてればいいなぁって思うんでありますが、みんなそこんとこどうよ?目撃談とかでもいいでありますよ〜」
というわけで、みんなが
とドロロの話を、主にトラウマ関連について話すことになった。考えて見れば悲しい議題だ。
ケロロの場合
「んじゃ、まずは我輩から。あの日は…………なんだっけ。もう忘れてしまったんでありますが、ドロロのトラウマスイッチを入れちゃってさ〜。こう、じとじとといじける訳さ。隣で」
「ひどいよ。ひどいよ。ケロロ君…………」
「うわ、コリャ長くなる!!と我輩焦ったんでありますが、まさにこの瞬間救世主が現れたのであります」
「あ、ドロロ待って。トラウマになる前にここの意味教えて、ほら」
「ビンタ一発でありましたなぁ。見事に決まってドロロは覚醒したのであります。その後はけろっとしたものでありましたよ」
クルルの場合
「ドロロ先輩と
ねぇ…………。あぁ、そうだ。そういや、いつのまにか隊長の部屋に先輩が来てたときがあったな。しかも最初からトラウマモードで。オレはすぐに出て行こうと思ったんだがそこに
が入ってきた」
はいきなりトラウマモードのドロロを掴んだ。そして、持ってきていたリュックに詰め始めたのだという。 「それ、どうするんだよ?」 クルルが聞けば、ドロロを背負いながら
は答える。 「体力づくりの散歩。ドロロ連れていかないと怒るから」
「帰ってきたときには、晴れ渡った顔してやがったぜぇ」
モアの場合
「え?私ですかー?モアが見たものと言えばー…………。あ、そうです!オジサマがいつものようにドロロさんを会議に呼び忘れて、トラウマモードになってたんですけど、
さんがその隣で本を読んでらしたんです」
それから小一時間ほどしてモアが戻ってくると、
の膝の上で眠るドロロがいたと言う。 「大方、疲れて眠っちゃったんでしょ。まったく邪魔よね。モアちゃん、かけるものとって」
は眠ったドロロを気にせず、また本を読み始めた。
「ドロロさんとーっても幸せそうでしたよ。てゆーか、一心同体?」
ギロロの場合
「俺の話は、トラウマ緩和には役にたたんかもしれんな…………。三日ほど前か。モアが言うようにトラウマモードのドロロの隣で
は本を読んでいた。しかしここで違うのは、ドロロが自力で覚醒するまで、
は本を読み続けていたということだ」
ようやく覚醒したドロロが
に言葉をかける。
は本からちらりと視線をあげた。 「あのねぇ、自分の機嫌がよくなったからって構わないでよ。今いいところなの」 そのまま、また本に視線を移す。
「ドロロはまた沈んだな…………あれはトラウマ以上だ」
タママの場合
「えっとーボクはですねぇ。昨日見たんですけどぉ。日向家のリビングでボク、お菓子食べてたんですぅ。そしたら
が入ってきて、片手でドロロ先輩を抱えてるんですよー。いやぁ、あれは驚いたですぅ」
は片方の手にドロロを、もう片方の手にひざ掛けを持っていた。そして驚くタママに挨拶をして、窓際の日がよくあたる場所に座り込んだ。 「
っち〜。それ、どうするんですかぁ?」 「これ?お昼寝するから日除けにしようと思って。顔が焼けるのは嫌だから」 言うなり、膝をかかえるドロロの隣で横になる
。しばらくしてまたそこを覗くと、ドロロが嬉しそうに眠っている
の頭を撫でていた。
「ボクにはバカップルにしか見えませんでしたよー。でも、
っちのほうにまったくその気がなさそうなのは否めないですぅ」
全員の意見を総合すると、
は「トラウマスイッチを積極的に解除しようとは思っていないのかもしれない」という結果がはじき出された。 常に傍にいるし、彼女の周りでドロロは至極嬉しそうだが、
の方はそれについて無頓着だ。いたい時一緒にいられて、わずらわしいときははっきりとそう言う。
「えーっとぉ。じゃあ、これはどうするんでありますかぁ?」
ケロロが半笑いで後ろを指差せば、膝小僧を抱えたドロロの姿。全員がその重症さに辟易するほどのトラウマっぷりだ。今回はいつものよりひどく、またいつものようにケロロが原因だった。あわよくば
を呼びトラウマモードを解除していただきたかったのだが、それについて「待った」がかけられた。呼んできて悪化したらどうするんだと言う意見から会議は始まったのだが、この五分五分の意見に、身動きが取れなくなってしまった。
「こんにちは。あ、会議中だった?」
その空気を壊して、件の
が現れた。ケロロの瞳が輝く。
「
殿!ドロロのトラウマモードをどうにかしてほしいでありますぅ〜!!」 「はぁ?またなってるの?」
は飽きもせずまぁ、と感想を漏らしてからドロロに近づいた。半径二メートルほど暗い雰囲気がかかっていたのだが、そんなことお構いなしにドロロの首に何かを巻きつけていく。よく見れば、薄い青色をしたマフラーだった。
はそれを巻き付け終わると、立ち上がって「じゃあ」と踵を返す。
「ゲロッ?!ちょーっと待って!慰めないのでありますか?!」 「慰める?なんで?」
わからない、と言ったように
は首を傾げる。プレゼントをあげにきたのだがら、それを置いたら終わり、それ以上の意味はない。そう言われているようで、こちらは少したじろぐ。
はドロロを一瞥して、ケロロに向き直った。
「わたしにしたら、トラウマになるほど強烈で鮮烈な友達の思い出があるってことが羨ましいよ。聞くと面白いし。なによりトラウマモードで保っているような精神の安定をわざわざ妨げる必要もないでしょ。本当に危なくなったらケロロがどうにかすればいい」
いや、今がそのときかもしれないんですが…………。 ケロロの呟きは聞かれることはなく扉は閉められる。
が去ってしまった会議室の空気は先程より少しばかり重くなっていた。どうしたものか………とケロロが悩むが、そのときモアが声をあげた。
「大丈夫みたいです。オジサマ」 「モア殿?何が大丈夫なんでありますか?」 「ほら、見てください。…………てゆーか、心配無用?」
モアの指差したさき、ドロロはしっかりとトラウマモードに入りながらも、
に巻きつけられたマフラーを握っていた。無意識の行動なのだろうか。しかしほのかに暗さも収まったように思える。
「あー。今日の会議でありますがー」
ケロロは頬杖をついたまま、一同の顔を見渡した。
「タママの意見を採用。二人はバカップルであります」
まったく畑違いの議論の末、当の本人である
が反論しそうな結末で侵略会議は幕を占めたという。
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