自分が長年のトラウマからようやく解放されたときにはすでに会議は終わってしまっていて、ドロロはまた大きな失望の息を吐いた。会議のはじめに議題の内容によりトラウマスイッチが入ってしまい、それを引きずって結局参加せずに会議が終了する。議題はいつも子供時代を連想させるようなものだから、それさえもケロロの故意に思えてしまってドロロを打ちのめしていた。けれどケロロはそんなことを、考えてもいないことはわかっているのでドロロが勝手に落ち込んでいることは本人も理解している。 「なんだ、気づいたのか」 立ち上がり固まった筋肉を動かしているとギロロが入ってきた。彼はこちらを向いていつもより優しい笑みを零す。たぶん自分の様子を見に来てくれたのだろう。彼は昔から、弱っているものや女子供には呆れるほど優しかった。 「うん、ついさっき。………………今日の議題はどうだったのでござる?」 「いつもどおりだ……と言いたいところだが、今日はに一本取られたな」 苦笑いのような、嬉しげな口調で言うギロロの真意がわからず首を傾げると、「なんだ、ホントに見えていなかったのか」と逆に驚かれてしまった。同じ会議室にいたのだから自分も見ていたと思われるのは仕方ないが、いかんせんトラウマスイッチは周囲を完全に遮断してしまう。が何をしたかまで感知できなかった。ギロロは説明下手な彼らしく、たどたどしくも誠実な言葉を選んでドロロに伝えてくれた。説明を受けたドロロはきょとんとした目でギロロを見る。 「た、隊長を殴った…………のでござるか?」 「いや殴ったというか、だな……その……渇をいれたと言ったほうが正しいだろ。そのおかげでケロロのやつもやる気になって部屋で作戦を練っている」 「そう、でござるか。いやはや…………」 はどちらかといえば手が早い部類だ。言っても聞かないなら暴力にだって訴える。それが彼女よりも力の強い人物であってもかまわない。相手がわかってやっている悪癖なら、最初に警告すらしないこともままあることだった。今回はケロロがそうだった。本便にとっては無鉄砲などではなく彼女なりの理論の元に行動しているのだろうが、それは他人から見れば無茶の域を出ないのだ。 「は、なんというか……………強いが、放っておけない感じがするな」 「ギロロ………くん?」 「別に変な意味じゃないからな。ただ、いつかぽっきりと折れてしまいそうな感じがするんだ。誰も彼も気づかないところで」 ギロロの言いたいことは、ドロロにもなんとなくわかっていた。は決然としているから、迷いなど見られないように感じられる。だからこそ、どこか空々しく乾いているような気持ちになるのだ。細い一本の塔が空に向かって果てしなく伸びているさまを見ているような心もとない感じ。しっかりとした骨格があるにも関わらず、思わず支えてしまいたくなる。 ドロロは静かに笑った。弱々しかった昔の自分と比べてしまう。 「けれどは、折れてもひとりで立ち上がっちゃうと思うんだ。僕の手なんか借りなくても」 冗談交じりにいったつもりだったのに、声には悲痛さが籠もってしまっていた。眉も下がっていたから、とても格好悪くギロロの目には映ったことだろう。けれどドロロが恥じるよりも早く、ギロロは大きな目をもっと大きくして首を傾げた。 「なに言ってるんだ。ドロロ」 その純粋すぎる瞳には、赤い彼とは対称な自分の青い体が映っている。 「そのに、すべてのきっかけを与えたのはお前じゃないか」 まるで当たり前のことを話す教師のような、単純すぎるほど実直な答えにドロロは胸が熱くなった。助けたのではなく、きっかけを与えられたことは自分が誇ってもいいことだ。けれど彼女がここで選べる無数の未来のうちどれを選んだとしてもドロロは喜ぶべきことのはずなのに、の成長がドロロを淋しくさせていく。離れるわけではないはずなのに、とても我侭な胸のわだかまりを抱えて、ドロロはギロロに礼を言った。 |
手を繋いで隣を歩けるだけで
(08.01.06)