みんなにそれは変だと言われるのだけれど、第一印象は「随分、冷たい人」だった。もちろんわたしのことではなく、わたしが彼に感じた第一印象だ。夏美に話したらそれはやっぱり変だと言われて、冬樹君でも感想は同じだった。だからわたしはこのことをもう誰にも言わないように心がけている。言ってからなんなのだが、ひどい言い方だと反省もしたからだ。
「殿?」
ドロロがわたしの顔を覗いた。意識を飛ばしていたわたしは、変な声を出して後ずさる。
いきなり現れるのはやめてほしい。
「一応、声はかけたのでござるが」
苦笑して、ドロロが向かい側に腰を下ろした。自分の部屋に居座る宇宙人にも慣れてしまった。それが困ったことかということさえ、今のにはわからない。
ドロロはたまに遊びにくる。本当に、ごくたまに。なんの前触れもなく。
「今日はなに?」
「特には。…………あぁ、手土産に菓子がござるよ」
ありがとう。わたしは答えて、けれど本当はそんなことを聞きたかったわけではないことを結局言えなかった。ドロロは微笑んでいるような穏やかな表情をしている。いつも一緒のような、そうでもないような顔。はそう考えてしまう自分自身に少しだけ、ほんの少しだけだが戸惑う。
「なぜでござろう」
の部屋に訪れると、ドロロは一人で喋ることが多い。よりも話し、よりもどこか深いところで悩みだす。それとも、彼は元からそんなに深いところにいたのだろうか。
「殿と一緒にいると…………なぜか、とても複雑な気分になるのでござる」
それが幸せとはかけ離れていることなんて、は最初から知っていた。落ち着かない人だと思った。深いところで悩んでいるくせに、それを今度は複雑にしてしまっている。に会いに来ているのがその証拠だった。はドロロを理解したいとも、それで彼が癒されるだろうとも考えていなかった。ただ、その青い瞳はいつもどうしてそんなに悲しそうなのかと考えていた。
「一緒の酸素を吸ったら、考えていることも同じになればいいのにね」
同じ部屋にいるだけで、彼の気持ちもわたしの気持ちもすっかり相手に伝わればいいのに。
そうすればこれがどんなに不毛なことなのかわかるはずなのだ。ドロロは笑った、ように見えた。
「…………そんなことをしても無駄でござろう」
みんなが言う彼らしくはない残酷さをもって、ドロロはわたしに告げる。どちらが本当のドロロであるかなんて、もうわたしにはどうでもいいことだった。
「拙者も、殿も、叫んだって誰も聞き取ってくれるはずがない」
どんなに叫んでも誰も気付いてくれるはずがない。だからわたしもドロロも泣かないし、叫ばない。無駄なことはしない。わたしは笑いたくなる。自虐的に。
「わたしたち、いつまで一人で溺れてるのかな」
「さぁ。いつまででござろう」
「もしかして、ずっとかな」
「もしかすると、そうかもしれないでござるよ」
深くて暗くて不毛な、寂しくて冷たい会話のやりとり。ふたりでいても、結局ひとりで溺れているに過ぎない。広い広い海原で、ひとりぼっちで。傍にいるけれど一緒に溺れているわけではないのだ。ただ、偶然に、二人ともお互いを見つけてしまっただけ。
「相変わらず、冷たいね」
言わないでおこうと思ったのに、はそう口にしていた。ドロロは否定もせず、だからと言って積極的な肯定もせず、ゆらゆらと笑っている。
どちらかがもう少し、誰かの存在を許せたり、ぬくもりを分け合えたりするくらい優しければよかった。
わたしは考えて、ドロロがいるというのに目を瞑ってそこだけ世界を終わらせた。
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