一緒に聞こう。今はただこの歌を。
視界にかすむ雨の粒。近づいてみれば、ガラスの表面についたそれはなんだか不思議な色だった。
「何をしてるんだ?」
聞かれた言葉。穏やかな調子の声は、後ろから発せられる。 あたしは驚かなかったふりをして、ただ窓についた水滴を見つめた。
「何してるように見える?」
「質問に質問で返すのは感心せんな」
「いいから、答えてよ」
お説教されるなんてまっぴらだ。 ひどく心地よい気分で、雨音を聞いていたというのに。 彼は少しだけ迷ったように考えてから、続けた。
「夏美の友人がたった一人あいつの部屋で、窓の外を凝視してる」
あたしはようやくギロロを見た。
「・・・・・・・・そのまんまじゃん」
「お前が答えろと言ったんじゃないか」
「もっと、こう・・・情緒ってものがあるでしょーが」
あたしはわざわざ窓に寄せたクッションの上でため息をついて、窓に耳をよせた。 触れた頬がひやりと冷たくて気持ちいい。
「今度は、何をするんだ?」
「・・・・・・・・」
あたしはちらりと彼を盗み見て、ようやくうっすらと笑った。
「雨音鑑賞。・・・・・・・ギロロも、どう?」
腕を広げて、ウエルカムのポーズを決めれば視界の端に映った彼は苦笑した。 それから躊躇う様子もなく、わたしの前で座り込む。
「結構、ノリいいんだね」
「たまにはな」
「まぁ、嬉しい」
答えにちょっと不満だったあたしは拗ねたように瞳をつむる。 そうすると、あたしの世界は音だけになった。 雨の音、風の音、ちょっとした雑音。
「綺麗な音、だな」
あんたの声のほうがよっぽど綺麗よ。 言いそうになった言葉をこらえてあたしは、そうでしょうと返した。 目を開けなくても、あなたが微笑んでいることはなんとなくわかるよ。
雨の降る薄暗い部屋で、わたしが雨の音を聞いてたわけをあなたが知ったら笑うかな?
「雨って、好きなの」
小声の呟き。 あなたにこの真意は届かないのだろうけど。
雨音を聞きながら、待っていたのはあなたなんだから。
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