ねぇ、一つだけお願いがあるの、いいかしら? 決して難しいものじゃないわ。簡単よ。それにわたしがあなたに出来ないことを頼んだことがあるかしら?答えはノー。大丈夫。とても簡単なことよ。だから構えないで聞いて頂戴。え?あら、違うわ。お土産が気に入ってないわけじゃないのよ。このナイフ、欲しかったもの。買ってきてくれて嬉しいわ。あなたは知らないだろうけど、これ限定モノで凄く高いのよ。それをしかも二本も!しかもご丁寧に赤いリボンまでつけて!嬉しくないはずがないでしょう?
あぁ話が脱線したわね。お願いって言うのは、この贈り物のことなの。でも勘違いしないで。あなたの贈り物は本当に嬉しいのよ。どこから調達してくるのかわからない大量の真っ赤なバラも、性能のいい銃火器も、あなたの部下だっていう・・・・・トロロ君、だっけ?彼が作った自動防御システム付きの軽起動メカもすこぶる好調でわたしにはもったいない限りだわ。あの戦闘機用のライフルだけはいつ使うかわからないけれど、でも本当に感激してるわ。ほらわたし、施設で育ったって言ったでしょう?だからお誕生日もまともに祝ってもらえなかったの。でも、あなたと一緒にいると毎日が誕生日みたいなんですもの。嬉しくて、わたし凄く幸せものなんだって宇宙中の人に誇れる自信があるのよ。
でも、でもね?指輪だけは送らないで頂戴。お願いっていうのはこれなの。簡単でしょう?それにもし買ってきても受け取ってなんてあげないから、ちゃんと肝に銘じておいてね。・・・え?なぜ、ですって?・・・・聞かないほうがいいわ。聞いたら、あなたはわたしのことを冷めているとかツマラナイ女だって思うでしょうから。・・・・・・・・・・・・別に発信機や盗聴器の心配はしてないわよ。取り付けられたらわかるもの。・・・オーケー。わかったわ。あなたの方がドライね。降参よ。
わたしはね、それをもらって安心することが怖いの。指輪って形で繋いでしまったら、いつか無くなってしまう気がするのよ。ほら、形あるものは壊れて風化してしまうものだから。それに、今のままでわたしは十分だわ。わたし達はわたし達だけの思いだけで繋がってる。それって素晴らしいことだと思わない?明日あなたがここからいなくなってもわたしはあなたを恨んだりしないの。思いがなければ一緒にいる意味なんてないから、指輪であなたを縛るよりずっといいもの。それでもわたしはあなたが好きだから、泣くくらいはさせて頂戴ね。それにもし―――――もし、よ? 戦場で、考えたくないけれどわたしが捕まって捕虜になったりしたらその指輪はとても厄介なものになるでしょう。彫られたあなたの名前はきっと、あなたの首を絞めるわ。それが一番心配なのよ。お荷物になるなんて真っ平ごめんだわ。まぁ、そうならない自信はあるんだけれどね。
………ねぇガルル、わたしの話を聞いていた?大真面目に頷かないで頂戴。復唱も結構よ。じゃあ今取り出したその箱は何?黒くて小さくて、まるでそうアレを入れる箱みたいね。わたしの目の錯覚だとは思うけれど違うわよね?あぁ、いいわ。開けないで頂戴。いいわよやめて。いいったら―――――。
呆れた。 あなた、とんだ食わせ者だわ。考えることがちょっと意地悪よ。 だってまさか溶接式の腕輪を用意するなんて!予想できないじゃない!! これじゃはずされる事も、わたしより先に風化することも無いわね。笑っちゃうわ。心配した自分がよ。・・・・喜んでいるかって?えぇ。ふふふ。もちろん。シンプルすぎるけれど、宝石の価値もわからないわたしには丁度イイでしょ。それに金色って、わたし好きだわ。
ありがとう、ガルル。
|