叫んだのは、Cケロロだった。子どもとは思えないくらいの迫力だったから、まさか地球からケロロ軍曹がかけつけたのでないかと錯覚しそうになった。しかし、トロロが腕をつきながらやっとのことで上半身を支える横にいるのは小さな子どもであるCケロロで、思い出せば叫んだ声も幼くて高かった。
はぴたりと殴ることをやめて、声にだけ反応するようにこちらを向いた。ぎくりとした。もしあんな無表情な冷たい目で見られたら、瞳をあわせていられる自信がなかった。けれど、こちらを向いたの瞳は光を取り戻していた。


「攻撃中止。隊長命令でありますよ」


Cケロロがもう一度、の瞳をとらえて言った。先ほどより優しく、寛大ささえうかがわせる声だったけれど、トロロは自分の横にぴったりと立つ彼の脚が震えているのがわかった。
もう、は完全に意識を取り戻していた。目覚めたばかりのように、Cケロロとトロロ、左手で掴んだ男の襟首、血のついた右手を見た。壁際で意識を失っているゾルルとタルルも見て、それを三回ほど繰り返してようやくは男を解放した。どさりと崩れ落ちる男の意識はない。


「…………はい」


一言だけ呟いて、は両手を見た。見た後に眉を潜めて、辛そうに瞳をつむった。
直感的に、こんなことになるのは、にとって初めてではないのかもしれない、と思った。切れて暴走してしまうことが、前にもあったのかもしれない。
両手の下の部分で、は頭を抱える。何をしたのかわかっているのだと思った。そうしながら、それが義務であるように、彼女の口が動く。


「はい。了解しました。…………隊長」


は泣いてはいない。ただ、後悔しているのだ。
トロロはそんなを見ながら、何が悪かったのか考える。Cケロロをタマゴへと強制還元する任務がに言い渡されたことだろうか。それをボクが知ってしまって、それを許せないと思ったことだろうか。三人で逃げ出して、無謀な逃亡計画をたてたところだろうか。たまたま訪れた銀行にテロリストがいたことだろうか。それとも、が飛び出したときすでに、もう間違ってしまっていたのだろうか。それとも。
トロロは瞳を閉じる。
それともCケロロが生まれたときすでに、こんな結末が用意されていたんだろうか。彼は消されるべきで、だからもボクも逃亡に失敗したのだろうか。
わからない。
わからないけれど、もボクも精一杯だった。彼を助けたかった。だっておかしいじゃないか。誰かのクローンであっても、彼はもうここにいるのに。
消されることを前提に生きることを許されるものなんていない。Cケロロは楽しいと笑って、不公平だと叫んで、怖いことにも立ち向かった。こんな小さい体なのに。
隊長としての資質がなんだというのだろう。そんな理由で、だから乗り越えられたわけじゃないんだ。に立ち向かったとき、彼は震えていたじゃないか。震える足でそれでもを止めるために、Cケロロは必死に戦ったのだ。
トロロは腕を伸ばして、隣に立つCケロロの手をとった。子ども特有の体温の高さ。純粋で、厄介な、ボクらの隊長。
どやどやどや。ようやく突入してきた警察の足音が、聞こえる。




は両腕で顔を覆って、天井を仰いだまま動かなかった。


































(08.02.23)