その日は嫌になるほど晴れていた。外にいるのが億劫になるほどの晴天と紫外線を浴びながら、ガルル小隊の面々は一様に空を見ている。宇宙ステーションと呼ばれるそこは、文字通り宇宙に行くためのものであり、宇宙に旅行へ行く人たちでいつもごった返している。
その中で、一面がガラスで遮られたロビーに立ち、発着便を見ている面々の表情はなんとも微妙なものだった。
先ほど、は全員にお礼とお別れを告げて一ヶ月の休養にでかけたのだ。


「………、行っちゃうんでありますね」


最後まで駄々をこねていたCケロロが、つまらない声を出した。目の前に止まっている宇宙船が諸悪の根源であるかのような顔をしながら。
Cケロロが強制還元されることがなくなったことが知らされたとき、一番喜んだのはもちろんだった。締め付けんばかりに抱きしめていて、目を真っ赤にして泣いた。それからCケロロの住まう場所だが、これもの家に決まった。それは上からの通達などではなく、彼個人の主張であった。だから、彼女が療養中の間はガルル中尉の家に厄介になることになっている。


「一ヶ月ですよ。短いものです」


ガルル中尉が慰めるが、Cケロロは唇を突き出して抗議する。


「一ヶ月たっても戻ってこなかったら、どうするんでありますか」


もっともな言い分だったし、その可能性は十分にあった。けれどガルルはわからないふりをして、「そんなことはありませんよ」と優しく諭す。そうさせないつもりであることは、言わなかった。


「でも・・・・・・・・・・・・オイラはがちょっとでも元気になってくれてよかったッス」


は病室に来て、二人を見て、ゆっくりと一度頭を下げた。ごめんなさい。謝って、そしてそれ以上謝らなかった。許してもらえますか、と厳かに聞いてきた彼女の目が緊張して細められていたのを覚えている。タルルは軽い感じで「大丈夫ッスよ」と答えた。ゾルルも続いて「次は、負けナい」と言う。眉を下げて笑ったは、頬を赤くして「ありがとう」と告げた。ありがとう。謝罪とは違って、はその言葉をしばらく口にしていた。まるで許されるなんて思っていなかったような、悲壮さを払拭させるように。


「そうダな……………よカった」


ゾルルが頷いて、が乗り込んでいった宇宙船を見る。
地球に行くことにしたと言った時、の顔にはまだ深刻さが残っていたことを思った。見送りはいいと言ったのだが、のいない穴を埋めるために仕事が忙しくなってしまったプルル以外はここに居た。は申し訳なさそうに微笑んでいた。微笑めるくらいに元気になったことに、ゾルルが安堵したことなど知らないだろう。


「・・・・・・・・・・・・あっち行って、は療養になるんスかねぇ」
「おそらく、ならんだろうな」
「当たり前ダロ。あんなヤツラと一緒に居て、療養になんかなんないヨ」


Cケロロと一緒に駄々をこねたトロロは、相変わらず不機嫌そうだった。頭の傷はすでにふさがっていて、もう影も形もない。それなのに痛むと言ってはにかまってもらっていた。がこちらに帰ってきてからの向こう半年分の予定はトロロとCケロロで埋まっていると言ってもいい。


「だが…………にハ、必要ダろう」


静かにゾルルが言うと、他の面々も不承不承といった様子で認める。あんな騒がしい連中の中で、しかもケロロを取り囲む状況と言うのはにとって心やすまるものではないはずなのに、それでも彼女には必要なのだ。
宇宙船が徐々に動き出して、視界をゆっくりと移動していく。を乗せて地球に行くために、その巨体を動かしている。やがて飛び立つために浮遊した船が、空の彼方に消えてしまうまで全員がそこに突っ立っていた。周囲は忙しく歩き回っているというのに彼らだけはまったく動かず、空に消えた宇宙船を思っていた。そして破天荒に終わった逃亡劇の末に訪れた安らかで幸福な結末に、とりあえず納得してもいた。それぞれが、それぞれのやり方で。


が帰ってきたら、あっちの我輩から奪う計画でもたてなくちゃならんでありますね」


最後にCケロロが呟いて、他の隊員が苦笑して頷く。空があんまり眩しく青かったので、今は彼女の幸せを素直に祝うべきだと思った。
少し休もう。また元気な君に向き合えるのを楽しみにしているから。





































(08.02.23)