わたしはプルルさんが羨ましいと思う。だって、ケロロの昔を知っているでしょう?わたしは知らない、知りえない。ケロロの小さなときを共有していないってことが、とてつもない壁に思えることがあるの。ごめんね。可笑しな質問かな。ケロロは優しくて、わたしはいつも不安になることなんてないんだけれど時々、ホントにたまにね、悲しいくらい心もとない感じになるの。例えばあの喋り方になった日に、軍曹になろうと決意した日に、みんなの隊長になった日に、わたしが立ち会えなかったことをとても悔しく思う。そんな馬鹿げたことってないでしょう?わたしの望みは叶うはずもない。知らない日々が悲しいのは、たぶんケロロを遠く感じることが多すぎるからだと思う。触れていても、話していても、約束をしてもらっても、きっとこれは埋まるはずがない溝なんだと思う。ごめんね。ホントにごめん。プルルさんには関係のない話だと思うし、全部が終わってから言い出すなんて弱い人間のする言い訳だって思うよ。でも言っておきたかったの。プルルさんには言っておきたかった。わたしはこんなにも彼を愛していて、だからこそ別れる決意をしたんだって。褒めてくれたり叱ってくれる人が、地球人じゃ嫌だったの。だからあなたに聞いてほしかった。ありがとう、プルルさん。それじゃ、さようなら。
プルルちゃん!聞いてよなんでよどーしてなのよ!が我輩と別れたいとか言い出して!んで、いつもの冗談だと思って「はいはい後でね〜」なんて答えたら、あの日からまったく音沙汰なしなんであります!クルルにそのときの映像を見せてもらったら、の顔すっげー真剣だったし…………。なんか我輩悪いことしたかなー。殿に嫌われることなんてしてこなかったはずなんでありますが…………。へ?イヤに自信があるって?そりゃそうでありますよ。殿にはすっげー気ぃ使ってきたもん。嫌われないように、殿の日常を壊さない程度の我輩しか見せなかったし。 ……………………あぁ、そういうことネ。プルルちゃんの言いたいことはわかってるでありますよ。そういう態度が殿を傷つけたっていうんデショ。我輩だってそりゃあねぇ、全部見せられたらって思わないわけではないのでありますが、考えてもみてよ。人を殺したとか仲間を見捨てたとか、クローンとかそれ以外の暗〜いもろもろをさ。二人で抱えるには大きすぎるっしょ。我輩はこんな性格だから割り切るッツーか考えないようにしてるけど、殿はそうはいかないでありますからなぁ。地球人に限定はしないけど、我輩の好きな人種って自分よりも他人のことに本気になりすぎて自滅するようなヤツラばっかなんだよね。特にギロロとドロロがいい例だし。も例外に漏れず、なんだよね。我輩、殿を愛してるから過去になんてこだわりたくなかったんでありますが、それが彼女にとっては「こだわってる」ってことだったのカナー。しゃあない。諦めるしかないでありますか。 プルルさんプルルさん。ごめんなさい!この間、さよならを言った身分でまた来てしまってごめんなさい!でもわたし分からなくて、混乱していてどうしたらいいかわからなくなってしまったんです。この手帳を見てください。わたしのものです。いつも一言日記をつけるのを日課にしているんですけど、知らないものがあるんです。ずっと同じ人について書いてるんですけど、誰のことだかわからないんです。半年くらい続いているんですけれど…………「○月×日 ケロロと一緒に散歩にでかける」「○月☆日 ケロロと喧嘩。ちょっと深刻」「×月☆日 デートにでかける。紅葉がきれいだった」…………こんな、いかにも仲のよさそうな日記、わたし書いた覚えがないんです。どうしよう。わたし誰かのことを忘れちゃったんでしょうか。こんな、「彼氏みたいな」人を。忘れるなんて…………。クルルにも聞いてきたんです。わたしの記憶をいじったかって。でもやってないって…………どうしよう。すごく大切な人だったはずなんです。もちろん記憶なんてありませんけど、どうしても忘れてはいけないことだった気がするんです。けど、プルルさん…………思い出しても会いたいとは思わない気がするって言ったら…………おかしいですか? およ。プルルちゃんじゃん。どったの、血相変えて。…………はいはい、我輩殴るのはいいけどそれで気は済まないっしょ。だったらちょっと、我輩の言い分も聞いてもらっていい? 殿の記憶を消したのは、プルルちゃんの考えてるとおり我輩でありますよ。クルルに頼んで作ってもらった装置で、殿の我輩に関する記憶だけを抜き取らせてもらったのであります。他の隊員のことはもとよりプルルちゃんのことは覚えてたでありましょう。だからクルルが「やってない」って言ったのに嘘偽りはないんでありますよ、「やった」のは我輩だもん。…………殿はそんなに混乱しているのでありますか。プルルちゃんがそんな怒るのを見るのは幼年組のとき以来だしさ。…………日記をつけてるのは知ってたよ。あたりまえじゃん、殿のことなら知らないことなんてなぁんにもない自信あるしぃ。んで、殿は我輩の記憶がなくなって混乱してても、我輩には会いたくないって突っぱねられるのもなぁんとなくわかってたんであります。だって殿って賢いからさ。なんつーの?鼻がきくっていうか。危険を察知するのが早いんでありますよ。だから、我輩の術中にハマってくれない。望んでもらえないのはこんなに悲しいことだったんでありますねぇ。ギロロに殴られたとこより、ドロロに説教されたことより、こたえてるんであります。 プルルさん。わたし、なんとか折り合いをつけることにしました。何がって…………あの、手帳に書いてあった「彼氏かもしれない」人のことです。ホントは最初から取り乱すこともなかったかもしれないんですけれど…………ほら、ここ。「今日で、ケロロとはさよならした。きっと納得してないと思う。けれど、わたしは戻れない」最後の日記にこう書いてあったのは知ってたんです。でも、「ケロロ」なんて人知らないし、知らないってことが無性に腹立たしくて知りたくなって、パニックになっちゃったんですよね。だからプルルさんにはご迷惑をおかけして申し訳なかったんですけれど、「さよならした」んだろうから、わたしは進むべきだと思うんです。「わたしは戻れない」なんて書くくらいだもの。ひどい喧嘩か、許せない軋轢があったんだと思う。それを知らないわたしは、とても幸せなことだと思いませんか。過去を悔やんで泣くことも、未来に彼の影を追うこともない。とても幸福な始まりを迎えられるかもしれないって、思うんです。 あ、開き直ってるってバレましたか?こうでも思わなきゃやってられないんですよ。クルルの「やってない」は信用してます。疑うべきは「やってない」クルルが発明した装置を使った誰かに対してですから。それ、きっと「ケロロ」って人だと思うんです。覚えてないけれど、随分意地の悪い人と付き合ってたんですね。わたし。 また来たんでありますか。プルル看護長。仕事しなよー、ガルル中尉に怒られるの我輩なんだけどぉ。…………はいはい。殿が開き直っちゃったんでありましょう。わかってるでありますよ。それくらい予想してたから、こうなることは事前にわかってたんであります。無理やりにでも進む殿を見届けたら、我輩の意地悪も終えるつもりだったしサ。 あ、なにその目―。疑っちゃってるんでありますかぁ?大丈夫。明日には我輩についての日記の記述は全部消滅してると思うし、「彼氏がいたかもしれない」っていう曖昧な記憶も綺麗に消えるはずだから。我輩以外のことはもちろん残しておくから、そっちも心配なし。別に奪い取ろうと思ったわけじゃないし…………たださぁ、なんとなく、我輩を大好きな殿が可哀想になっちゃったんだよねぇ。きっとこれから誰かを愛するときに、ふと思い出したりするのがどっかの異星人とかサ、相手に対して失礼だと思わない?そんなのと比べられるなんて、分が悪すぎるっツーか…………。我輩は忘れないでありますけどね。比べて比べて比べまくって…………最後に殿以上の人を見つけるんであります。そうじゃなきゃ、それ以下の子と付き合ってもシアワセになんてなれっこないと思うんだよネェ。ハハハ。遠い未来でありますなぁ。 あ、プルルさんいらっしゃい。どうしたんです。こんな夜更けに。…………とても悩んでる顔をしてらっしゃますね。どうぞ、かけてください。今度はわたしがお話を聞きます…………なんて言っても、やっぱりわたしのことですよね。わかってるんです。「ケロロ」って人のことを知りたければ、プルルさんや、他のみんなに聞けばいいってことくらい。わたしが本当に追求すれば、教えてくれる優しい人たちばっかりだってことくらい知ってるんです。でも、最初に言ったように思い出しても会いたくないってわかってる。だから無理にでも聞き出すことが躊躇われてしまうんです。バカみたいに矛盾しててごめんなさい。騒ぎ立てることがどれだけ愚かしいことかもわかってます。でも、これでやっと彼の気も済んだことでしょうから。 だって記憶が消せるほどの力を持った人が、どうして日記の文章だけは残したんだって考えるとそれしか思いつかないんです。わたしに少しでも「気付いて」ほしかったんじゃないでしょうか。それほど無視した昔のわたしも意地悪ですよね。だからね、付き合ってあげることにしたんです。知らないふりをして、混乱を装って、彼の気が済むようにしてあげたんです。無理やりにでも進むわたしを見ていたら、彼だって進まなければいけないって思うはずでしょう。え?少しでも思い出したのかって?いえいえ、相変わらず「ケロロ」なんて人、皆目見当がつかないんです。おぼろげにさえ思い出せない。どんな声をしていたのか、触れた感触はどうだったのか、どんなふうに笑ってたのか。知らないけれど、でもねプルルさん、わたしはその人と遊びで付き合っていたわけではないんです。自分のことだものそれだけは確信してます。だから、わたしが付き合うほど「立派な」人がしたことを責めるつもりはないんです。ただ寂しがりな人っぽいから、どうかプルルさん、会うことがあったら慰めてあげてください。怒られることで立ち上がれるのなら殴っちゃっても構いません。ただ、彼にも立ち上がってほしい。大丈夫。わたしの愛したひとだもの。 うわっちゃー…………プルルちゃん。出会いがしらに右アッパーとか酷くない?恨みはあるだろうけど、時間差で来るから全然防御できなかったでありますよ。しかもギロロと同じ場所を正確に狙ってくるあたり、すっごく冷静っぽいし…………怒ってる? あぁ、なんだ。殿のとこに行ったんでありますな。しかも昨夜…………まだ記憶は残ってたっしょ。でもね、ついさっき全部さっぱり消したからもう「彼氏だったかもしれないケロロ」なんて人物は殿の世界からいなくなったはずであります。プルルちゃんが我輩殴るのは構わないけど、殿はもう突っつかないであげてねー。きっとこれから素敵な地球人の男性と出会って、普通の恋をして、シアワセな家庭を持つんでありますから。下手に我輩について思い出したりしたら、それこそ目もあてられないしサ。我輩はまぁ、なんつーの、また独身貴族で自由な生活をエンジョイするでありますよ。フラれたからって地球侵略進めたりしないと思うし。あ、ちょっと呆れたでありますな?もう、朝からギロロには「馬鹿が」って百回くらい言われるし、ドロロには和菓子もらっちゃうし、タママにはガンプラ、クルルからはなんもなかったけど…………なんか、我輩の方が心配かけてる気がするンでありますが、これって気のせいじゃあないよネー。女々しいっていうか、これって隊長としてどうなのよって感じであります。ホントに我輩ってば救えないやつぅ。 あープルルちゃん、呆れついでに一個だけ聞いてほしいんでありますが、我輩ね、殿がちゃあんとシアワセになれるまで見守ろうと思ってるんでありますよ。ストーカーっぽいけどさ、それくらいさせてほしいっつーか…………あ、断じて我輩が淋しいからとかじゃないから!そこんとこは誤解しないで欲しいのであります。我輩は自分の責任として殿の将来をでありますね…………って、おーいプルルちゃん?我輩のお話まだ終わってないんでありますがどこ行くのー。おーいってばー! |
二度目のさよなら
(07,11,22)