まるで上も下も終わりが見えないブランコにでも乗っているような気分ね。
わたしの一言に、いつのまにか隣に座り込んでいたケロロが片眉をあげて首をひねった。表情豊かな彼の一挙一動を可愛らしいと思う。成人を迎えているはずだから、わたしよりも遥かに年上のくえにやることが一々ガキくさいところも、失敗しても反省も学習もしないところも、好もしく思っている。
「まぁた、ギロロのことでありますか?」
いつもいつも子供のように高い声で叫んでいるというのに、こんなときばかり低い声で応対するのは単に嫉妬しているからという理由だけだろうか。わたしは決して彼の言うような意味で言ったわけではなかったけれど、否定しても疑われるだけなので頷く。こういう面倒くさがりなところが、いけない部分だと反省しながら。
わたしはギロロが好きだ。どこが好きだなんてことは関係なく、彼の存在がわたしを嬉しくさせるすべてだと言っていい。それは例えば、アイドルに憧れる少女にも似た思いだった。そこにいるだけで話すだけで、手の届かない存在に接触するだけで天にも昇る気分になる。
けれど、ケロロの考える好きは、恋愛のそれなのだ。
「あぁんな赤ダルマの、どっこがいいんでありますか。融通きかないし、馬鹿だし、短気だし」
「最後はいつも助けてもらっているのに、その言い草はないんじゃない」
「それは軍人として当たり前でありましょう。我輩これでも上官だし」
「・・・・・・・・詭弁」
「おやおや、殿にそんなことを言われるとは思わなかったであります。大人は口が上手いから、どんな言葉だって詭弁や嘘になっちゃうんでありますよ」
まるで大人という定義が悪いのだから自分は悪くないとでも言いたげな口調だった。彼とのやりとりはこんな感じで、終わりをまったく見ない。それを心地いいと思っているのだと告げないのは、面倒くさいからでは決してない。
ケロロは拗ねたような表情で、あぐらをかいたヒザの上に肘をついて顎をのせる。目が笑っていないので、相当ご機嫌ななめだ。
「殿がギロロを好きなことは・・・・・・・・・・・不毛であります」
彼はうんざりとした口調に、非難と少しばかりの申し訳なさをにじませて言う。小さな告白に、わたしは彼に見えないように微笑んだ。
本当に、上も下も底の見えない真っ暗闇の中でブランコに揺られているようだと思った。彼の辛らつな助言は、いつもわたしを心もとないくせに安心感のある乗り物に乗せてしまう。
「・・・・・・・・・・・・我輩にしときゃいいのに」
ため息と一緒に漏れ聞こえた温かな声をゆっくりと噛みしめる。こちらを見てくれない彼は知らないのだろう。ケロロの言葉で、ブランコに乗っているわたしは力強く背中を押されているのだ。強制ではなく、わたしが望んだように絶妙な力で揺れている。
ゆらゆらゆらゆら。あぁ、けれど彼は気づかない。
彼は自分の感情がまず一番だから、わたしが隣で嬉しそうに微笑んでいることなど知らないのだ。ブランコは揺れて、もうきっとあなたの手の届く場所まで来ているというのに。
(08.02.22) 自己中心的なケロロは、たぶんもうしばらく気づかない。
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