あなたには悪いけれど、わたし、ガルル小隊と仲が良かったの。面白いのよ。幼年体の隊員が二人もいるのに、侵略レベルはとても高いの。侵略レベルっていい言い方じゃないと思うんだけれど、他に呼び方もないから仕方ないわね。とにかく、愛らしい尻尾を揺らして、二人とも侵略者としては申し分ない腕前なんだから恐ろしいの。背丈の二倍くらいある注射器、見たことのない機械から打ち出されるわけのわからない信号、とにかく二人はとても強くて、ありえないほどキュートだった。
それと突撃兵と暗殺兵も忘れちゃいけない。暗殺兵の彼はすぐに忘れられてしまう特技を持っているから、ちゃんと覚えてなければいけないの。暗くて無言が多くて、すごく無愛想でわたし始めは彼が嫌いだった。本当に、なんでこの人はこんなにも冷たいんだろうって思ってた。わたしは自分の幸せが他人の幸せの感じ方と少しもずれていないって思っていたから、余計に彼が腹立たしかったんだと思う。でもある日ね、わたしが風邪をこじらせて寝込んでいたとき、突然彼がやってきたの。応対に出るのも億劫だったわたしは物凄く不機嫌だったし、間違っても綺麗なんかじゃなかった。けど彼はいつものように無表情なまま、持っていたビニール袋を渡してあいさつらしいあいさつもせずに帰ってしまったの。残されたわたしは呆然として、袋の中身を見て、もっと困惑した。中には桃缶と飲料水がこれでもかと言うほど入っていたの。種類も同じものが、ホントに沢山。笑っちゃうでしょう。桃缶とスポーツ飲料でどうにかなるほど、そのときのわたしの病状は優しくなかった。結局入院してしまったんだけれど、彼は入院先の病院にも同じものを持ってきてくれた。だからね、わたしの家には非常用の飲料水と桃缶がたくさんあるの。きっと一生困らないってくらい。
突撃兵の子はね、純粋に見えて屈折していて、プライドが高いくせに強いものは強いって認められる素直さを持っている不思議な子だった。オペレーターの子と話すとき屈託なく笑っていると思ったら、暗殺兵の彼と激しく戦っているの。それで、観察していると必ずこっちを見つけて笑うの。頭を下げたあとに、にっこり。あんまり綺麗に笑うものだから、その裏を勘ぐりたくなるくらい。だって視線で追っていただけのわたしには何の義理もないはずなのに、突然ジュースを奢ってくれたりしたのよ。わけもわからず受け取って、それから少し話しもした。口調のクセがね、後輩らしくて笑っちゃったんだけれど、彼は照れたみたいに笑って怒らないでいてくれたの。わたしって、センパイらしくないのかしら。
…………最後に、ガルル中尉。優秀、だった。それだけ。ちょっと弟を心配しすぎている感はあるけれど、とても部下思いでいつでも命令に徹することが出来る人よ。わたし、実はあんまり話したことがないの。だって堅物っぽかったし、なにより話題がないのよね。だから他のみんなに聞いただけなんだけれど、本当に凄い人なのかも。人に聞いただけだから、よくわからないけれど。あちらもわたしに対する印象はそんなものだと思う。他人以上知り合い未満、そんな感じ。
え? よく聞こえない。はっきり喋ってよ。
…………あぁ、ここに来た理由? 命令だからよ。それ以外の何があるっていうの。軍人の悲しい宿命よね。上の命令は絶対服従。他の人はどうか知らないけれど、わたしにはそれが全てよ。
………………………………はぁ?
お優しい勘違いもいい加減にすれば。わたしが彼らの任務をわざわざ自分に変更してもらったなんて、そんなことあるわけないじゃない。あなたが何て言おうと、それは絶対ないことなのよ。だって、わたしが自分から死にに行くと思うの。このわたしが。最悪の戦場にでて敵に追撃されたあげくこんな辺境の惑星に墜落して、情けないことに通信機も破壊されて、やっとのことで修復して送った電波はあなたにしか届かなかった。悪夢、としか言いようがないわね。
でも、いいの。感謝してる。あなたって嫌なやつだけれど、面倒見は意外にいいのよね。
…………………はいはい。……………冗談よ。
じゃあね。さよなら。意識を保っていられないの。目が霞んで…………さっきから空に羽ばたかない鳥が見えるのよ。だんだん大きくなってくるようにも見えるし…………あぁ、これはもう駄目かもね。じゃ、ね…………最高に嫌な奴。
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「およ、クルル。なぁにしてるのでありますか?」
通信を切って、クルルはようやく日向家の家事手伝いを終えた自分の隊長を振り返る。
「小遣い稼ぎ。割のいい仕事だったぜぇ」
「え? どんなのどんなの?! 我輩も一枚噛みたいであります!!」
「ククッ! あいにくたった今、終了しちまったんでねぇ」
クルルはノート型パソコンに向き直り、カタカタと操作し始める。ケロロが後ろで駄々をこねる気配がした。
「えー? クルルずっこいでありますなぁ。…………まぁ、いいや。ところで何を頼まれたんでありますか?」
「…………あぁ」
手元の操作を止めることなく、クルルは意地悪そうに笑った。
「紫の中尉殿から、自分たちの身代わりに激戦区に赴いた女の居所を突き止めてくれってな。報酬はたんまり頂けるし、の貴重な告白も聞けたし、一石三鳥どころじゃないぜぇ」
心底楽しそうに話すクルルを横目に、ケロロはその告白でいくらかの被害を受けると言う女性に同情した。それと、命拾いをしたに、少しの奇跡をこっそりと祝う。
(08.02.22) 嫌なやつに当分ネタにされてしまうこと確実。可哀想だ。
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