「だからね、そこはちゃんと素直に言うべきだろうと思うのよ」
「あのなぁ、そもそもアイツがそれを言うと思うのか?」
「いや、わたしだって直接聞きたいわけじゃないけどさ。でも、言おうとするぐらいはしてほしいのよね」
日が昇り始める午前中、まだ初春なのでギロロの焚き火は温かで有難い。囲うように二人でブロックに腰掛けて、先ほどからぐだぐだと同じ話ばかりをした。
「だって、クルルってばモアちゃんとべったりだしさぁ。ちょっとはわたしのことも必要としてくれてもいいと思わない?」
「例えば、どういう風にだ」
「そうだなぁ」
クルルの愚痴を、ギロロは相槌を打ちながら聞いてくれている。焚き火をつつく棒の先には、焼き芋がある。それが焼けるまで待つという名目で、は隣に座っていた。
「ほら、やっぱりギロロみたいなのがいいな」
「はぁ?」
「夏美ちゃんと仲がいいじゃない。とっても。さすがは付き合い始め!って感じがする初々しさがあるしさ」
「あああああああのなぁ!!」
「ほらそれ! その恋愛に対するどきどき感が足りないの!」
は人差し指をギロロに突きつける。彼は驚いて、抗議の言葉を飲み込んだ。ギロロと夏美は、の言葉通り初々しくも正しい恋人同士になりつつあった。それに比べてとクルルはと言えば、相手に求めるものが言葉よりも肉体に変わったと思わされる行動と暴言の数々をクルルから聞かされ、すでに恋愛不信になりつつさえあった。
好きだと告白してそのあとに求めたものは一体なんだったのだろう。最近はよくそんなこと考える。
「そう悩むな。あのクルルだって、遊びや酔狂でお前と付き合っているわけではないだろう」
「…………」
「睨んでもダメだ。隣の芝生は青く見えるというコトワザがあるだろう。それと一緒で、お前はないものねだりをしているだけだ」
かさかさと、乾いた落ち葉や枯れ木を加えるギロロの手元に迷いはない。は頬を膨らませながら、それでも青く見える隣の芝生を見る。ギロロと付き合いたいとは思わないが、その実直さや素直さをクルルに取り入れたいと願ってしまう。
「むぅ。ギロロはいっつも正しい」
「お前が、無理難題を言っているだけだろう」
「そうかなぁ。でもクルルとはいつも言い争いになっちゃ」
うんだけど、と続けられる言葉は背後で扉が開いた音で遮られた。音の荒々しさに驚いて振り向く。乱暴に開かれた縁側の窓の内側には、夏美がいた。表情の見えない、あきらかに常ではない緊張した顔をして。
「お楽しみのところ邪魔してごめんなさい? ギロロ」
「え?あ?・・・・・・・・・夏美?」
「ただちょっと言っておこうと思って。これからクルルのところに行って来るから、追ってきたりしないで」
きっぱりとした否定は、命令に近かった。とギロロは座っていたので、夏美の目が据わっているのがよくわかった。
「クルルのところ? 何しに行くんだ?」
搾り出すようにして聞いたギロロに対して、今度こそ夏美は怒りの表情で怒鳴りつけた。
「わたしも楽しみに行くのよ!じゃあね!!」
ばたん!力の限りで閉められた窓は、痛々しい音をたてた。とギロロはその様子にぽかんとして、彼女が怒っていたわけと意図を考えた。しばらくしてショックで動けないギロロよりも幾分思考のまとまりが早かったが、罰の悪い表情を浮かべる。
「もしかして…………………夏美ちゃんてば、わたしにヤキモチ焼いた?」
「は?ヤキモチ?!」
「若干嬉しそうな顔しないでよ。あぁ、あぁ!!面倒くさくなってきた!」
「あ、あのなぁ。面倒くさいと言うな」
ようやく状況を理解してきたギロロを今度はが睨む。
「じゃあ、ギロロは面倒くさくないのね? クルルのところに行った夏美ちゃんを説得することも、意地の悪いクルルの嫌味に耐えるのも」
「いや……………それはだな」
「わたしはすっごく面倒くさい!!それにクルルのところに言ってマトモな話なんて出来るわけないじゃない。夏美ちゃん、今の二倍はご機嫌を損ねるね」
「そうだな。だが、それで怒りの矛先はアイツに向かうのじゃあないか?」
「甘い!!嫌がらせのためなら労力を惜しまないあのヒネクレ者の性格上、そんな上手くいくわけがないわ。しかもついさっきわたしと喧嘩したばかりだから、クルルの機嫌も最高に悪いはず」
「………お前、それがわかっていて俺のところに来たのか?」
例えばクルルだとしても、喧嘩してすぐに他の男のところに彼女が行ってしまえば面白いわけがない。はあらぬ方向を見ながら、頭をかく。
「いやぁ、だってムカツいたからさぁ。ちょっとはヤキモチでも焼かせてやろうと」
「おっまえ!」
「怒んないで! 大丈夫だよ。あのクルルがこんなことで焼くはずないしさ。夏美ちゃんの誤解を解くのは手伝うから………」
「ゲロー!!!!ギロロ!殿ぉ!!!!」
勢いよくの背中にダイビングして、ケロロが乱入してくる。彼は騒ぎ出すときの彼らしく、涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔でこちらを見ていた。
「ケロロ?!何事だ?!」
「うぇっ大変なのでありますよぅ。いきなり夏美殿とクルルが地球侵略するとか言い出してぇ!!危険すぎる兵器は持ち出すし、パワードスーツは着ちゃうし!我輩もうどうしたらいいか!!」
えぐえぐと泣き出すケロロを見ながら、ギロロとは真っ青になる。どうやらクルルはきっちりと人並みにヤキモチを焼いていたらしい。けれど焼き方が、一般人のそれとは比べ物にならない。
ゴゴゴゴゴゴ。聞きなれた音と、付随するように地面が大きく揺れる。何が起きるか察知して、はもう本当にどうしようもなく面倒くさくなった。
「ちょっとは素直に言葉であらわせ!!」
大声が空に吸い込まれたが、日向家からの恐ろしい地響きは止まない。ギロロと二人で真っ青になりながら、は金輪際あの陰険眼鏡にヤキモチなど焼かせるものかと思った。
火遊びなど、できる相手ではないのだ。ライターだと思ったら火炎放射器だったということにもなりかねないのだから。
(08.05.03) クルル曹長のヤキモチは手に負えないと思う。
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