「遊園地? ロックバンドのライブ? ボーリング? それに……………………カラオケ?」
「動物園もよ。忘れないで」
きちんと片付けられたの部屋でプルルはぽかんと口を開けた。は穏やかに微笑みながら自分で入れた紅茶を「おいしい。この茶葉、初めて買ったんだけど正解ね」と言っている。とプルルの休日が偶然同じ日であったのを幸いと彼女の家に遊びに来たのだが、プルルは頭を抱えたくなった。彼らが付き合い始めて半年、うまく言っているように思えていたのに。
タルルは理解しているのだろうか。はプルルと同期だ。いくら彼女の外見が若く美しく見えるからといって、ケロロやギロロやドロロたちに当てはめてみればわかるだろう。世間から見ればいい大人であり、もうすでには周囲が認めるほどの責任も持っている。もうそんな、子供じみた遊びで満足するわけがない。(ここでケロロくんの趣味を持ち出すと、話がややこしくなるのだけれど)
「でもね、プルル。きっと遊園地なんて誘われなければ行くことなんてないと思うの。絶叫系っていう乗り物をうんと乗ったのよ。目が回っちゃった」
「へぇ………」
「動物園もね、とても楽しかった。変な動物がたくさんいるのね。絶滅危惧種だからって宇宙中の動物をあんな小さな箱の中に詰めておくなんて可哀想だって言ったら、彼ね、『じゃあこっそり逃がしましょうか』って本気な顔して言うのよ。笑っちゃった」
「…………ふぅん」
「カラオケも、あんなに歌ったのは久しぶりだった。それに本当は持ち込みってダメらしいんだけど、お弁当も作っていったからピクニックみたいだったのよ。変でしょ」
プルルは、すでに相槌すら打つのをやめていた。彼女の話し口調は本当に楽しかったのだとわかるのだが、何かが欠けているように感じた。それだけではないような。
「ねぇ、」
は台所に引っ込んで、夕べから用意していたのだというレアチーズケーキを切り分けている。リビングからでも見えるは、女性的で大人しいイメージだ。その姿に向かって言うと、「なに?」と意外にはっきりとした健康的でハツラツとした声が返ってくる。彼女の魅力は、こういうところだ。媚びない声と、偽らない意味を持った言葉たち。
がお盆に皿を二つ載せて戻ってくるのを見計らって、プルルは尋ねる。
「行きたい場所を選んだりしないの?」
は白地の磨かれたテーブルに慎重に皿を出しながら、少しだけ笑顔を引っ込めた。「しないわ」あまりにもはっきりと突き放されたので、プルルは若干ひるむ。
「予定はすべて、彼に任せてるの。だって、ちゃんと選んで欲しいから」
そのまま座ってお盆をヒザにおくと、は意味ありげな視線でプルルを見る。はっとして、彼女の意図にプルルは気づいた。あまりにも簡単な彼女の意味に。
「もしかして………………試しているの?」
はそこできゅっと口角をあげて笑い、エリートらしく瞳を吊り上げ挑発とも言える強い口調で答える。
「決断力と判断力のない男はクズよ。プルル」
は決して優しいわけではなく、恋に溺れているわけでもなかった。
見定めているのだ。タルルと言う男がどれほどのものなのか。ちゃんと恋をしていても冷静に考えることができる彼女に彼は勝てないだろうなと、プルルはひっそりと思った。
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