タルルが出て行ったあとの軍部はちょっとした騒ぎになったのだが、プルルもすぐに飛び出したので中のごたごたはよく知らない。多分ガルル中尉がどうにか納めてくれたのだと思うのだが、いかんせんプルルにも余裕がなかった。
タルルから大分遅れてプルルが現場についたとき、マンションの入り口は高い火柱に囲まれて中を窺うことすら出来なかった。消防車やらヘリが上空からの放水を試みるが、火の回りが強すぎて効果はないように思えた。急いでの部屋を探し、8階の角部屋はまだそれほど火がまわっていないことを確認する。近くで軍人が飛び込んだと騒いでいたから、タルルはマンションに入って今頃あそこにいるはずだと思った。
「………!?」
けれど次の瞬間、8階の窓にタルルが姿を現すとプルルは信じられない光景を見た。はるか上空からタルルが勢いよく飛び出したのだ。助走をつけ、手すりを蹴り、彼はあのとき体を伸ばしきって飛んでいた。その場にいた全員がそのとき、息もつけず言葉もでなかった。そしてすぐに落下してきたタルルに今度は短い悲鳴があがる。プルル自身も悲鳴をあげたが、タルルは抱きかかえたを守るように九の字に体を曲げて落下し、着地の瞬間は空気椅子のようにヒザを曲げたまま地響きのような音を立てて見事に着地した。両足で着地できたのは奇跡と言っていい。しかしプルルが気づいて駆け寄ったとき、タルルの意識はなかった。ぐらりと揺れる二人分の体を支えるようにしてプルルは一緒に倒れ、とりあえず二人の命の有無を確かめる。の方は煙を吸いすぎていたが呼吸はあり、タルルの方は衝撃のショックで気を失っているだけだった。
ひとまず安堵して、プルルは救急隊が駆けつけるまで精一杯の応急措置を施した。
* * * * *
「両足の骨折と全身打撲。一体どれだけの無茶をすれば気が済むの」
タルルが目覚めてプルルが言った第一声である。8階から飛び出したタルルの行動はニュースなどで取り上げられて連日テレビをに賑わせている。彼自身はすぐに集中治療用のカプセルに入れられて、火事の日から一週間眠りっぱなしの状態だった。
ようやく一般病棟に移してもいいことになり、ベッドの上で目覚めた彼にとって、それらのことはまったくわからない。
「スンマセン、プルル看護長」
「………まぁ、仕方ないとは思うけど」
「はい。…………………あの、は?」
恐る恐る聞いた。目覚めたらまったくわからないところにいて、彼女をしっかりと抱いていた腕には何もない。恐怖がせり上がってきて、怖くなる。プルルは一瞬顔を曇らせた。
「も命に別状はないわ。………でも」
「でも?」
視線を逸らしたプルルに噛み付くように問う。プルルは覚悟を決めたように、タルルの瞳を見た。命を預かる職務に就くのだから、それが仲間だとしても躊躇ってはいけないことだと。
「は火事の日から目覚めていないの。……………ただの、一度も」
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