何色が好きかと聞かれても、簡単に出せる答えじゃないわ。
世界に散らばる宝石の一つを、無造作に取ることができないように。
後ろ足で走ることができないように。
すぐに決められることじゃないの。
みどりがスキ。 新緑まぶしい命に溢れたその色は、それなしでは生きていけない動物が多すぎる。夏の青葉の瑞々しさを見て、雪の中に映えるリースの力強さを感じたら、もうみどりの虜でしょう。だってあんなにも自信とユーモアに溢れた彼の色だもの。
くろがスキ。 何者にも染まらぬ意志の強さを持ってるわ。どんな色も染め替えられやしないの、返り討ちが関の山ね。けれど知ってた?この色は、誰よりも輝くことが得意なの。 ほら、夜空が星の瞬きに溢れるように。闇のような彼がそっと教えてくれたのよ。
あかがスキ。 熟れたトマトを思い出すと言ったなら、彼は怒り出すかしら?でもそうやって怒ったら、ますますトマトに似てくるのにね。 落ち葉というよりは赤い花、散る姿もきっと立派ね。真似できないわ。だからスキ。
きいろがスキ。 水面に浮かぶ月の掴みどころがないように、くるりくるりと姿を変える。けれど同時にはっきりとした色だから、始めは戸惑うかもしれないわ。でもレモンの酸っぱい味に慣れるみたいに、きっと彼のことも好きになっていくでしょう。 体にビタミンが必要になるように、それは自然なことだから。
あおがスキ。 覆う空がその色だから。満たす海がその色だから。 深く深く人の心に染み入るそれが、人間の渇望するものだから。 悲しみを例える人もいるけれど、それを癒すのも同じあなた。うん。好きよ。
「結局、全部好きなんじゃない」
「夏美ちゃん」
「でも選ぶのは一つだけよ?」
じゃあ、あなたは何色を選んだの? 聞けば彼女は胸を張って、握った手を開いて真っ赤なリボンをわたしに見せた。
「あか?」
「そう」
「どうして?」
「・・・そうね」
少しだけ考えるように視線をくるりと一回り。
「情熱的で一途だから」
あぁ、それじゃ、あかだけは選ばないわ。
夏美ちゃんは少しだけ、照れたように笑った。
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