たぶん、わたしたちを隔てるものは数限りなく存在している。例えばそれは、自分の持つ価値観とか置かれた環境とか、離れているのかそうでないのかわからない年の差とか、変えられるはずもない種族の差とか。超えられるはずもないそういったものを、わたしはいつも飛び越えられずに忘れられずに頭の片隅に寄せて、冷たい影を背負うようにして彼らと接する。そうして時折、そんな自分が嫌になって彼らに会うたびに恐ろしくなるのだ。
この幸せは長くは続かないのだと、理解しているから始末に終えない。



「ギロロ」
「なんだ?」
「ねぇ、もし明日が来なかったらどうする?」



縁側、陽射しに瞳を細めながら傍らの彼に問えば、返事はなかなか返ってこなかった。今まで話していたのは、「焼き芋をどのように美味しく焼くか」だったから面食らっているのかもしれない。驚いて磨いている武器のスイッチを押してしまったら厄介だなぁとぼんやり考えた。彼はわたしの横顔を見ながら、声を落とす。



「明日が来なければ、俺たちはどこに行くんだろうな」
「……………」
「俺のような頭のヤツにはそう難しいことは考えられん。だがお前がそれを恐れるなら、俺はそんなもの全力で否定してやる」


彼があまりにも優しいことを言うから、わたしは少しだけ切なくなって胸を押さえた。何を言えばいいのかわからずに、わからないけれどこの気持ちを伝えようと必死に考えた。彼からどんな言葉が欲しかったのかなんてわからない。いっそのこと馬鹿だと罵って欲しかったのかもしれない。でもこんなに優しくされたらどうしたら。
嬉しいとかありがとうとか、もういっそのことぎゅうって抱きしめたい。



殿―。そんなくっさいこと言う赤ダルマに感動しちゃダミだよー」
「え」
「そうですぅ。伍長さんクサすぎですぅ」
「なっ!!」
「そうだぜぇ。センパイ、夏美以外ならマトモに口説けるんじゃねぇか」



突然声が増えて沸いたと思ったら、なんとその通り、彼らは家の庭から現れた。地面がぱっくりと割れて出てきたのは、三匹の蛙。いつから会話を盗聴されていたのだろうか。こんな天気のいい日に盗聴とは、暇な蛙もいたものだ。



っちーー」
「タママ」


駆け寄って、タママが大きな瞳でわたしを見た。黒い瞳にはたくさんのきらめき。


っち好きですよー」
「え」
「およっ。タママずるいでありますよー。我輩も、 殿好きでありますし!」
「ククッ!愚問だねぇ」



色とりどりの彼らが回りに集まるだけで視界の彩色が増す。あぁでも足りない。そう思えば、一陣の風が頬を撫でた。



「ドロロ」
「………………………もちろん、拙者も好きでござるよ?」



風と一緒に舞い降りた空色の彼は、照れて赤くなりながら呟いた。
わたしは何が起きているのかわからずに、告白の嵐に目眩を覚えた。陽射しが強くて眩しくて、もしかしたら暑さのせいでわたしはおかしくなったのかもしれない。



殿。大丈夫でありますよ。明日が来なければ作ればいいのであります」
「……ケロロ」
「それくらい我輩たちになら容易いことっ!まかせるであります!」
「まぁ、大抵働くのは俺だがなァ」
「ケロロは突っ立ってるだけだな」
「ゲロ?!ひどい!ドロロとタママ、なんか反論しちゃってよ!」
「やぁ、本当のことって言われると反論できないもんなんですよねぇー」
「まぁまぁ、いいじゃないケロロ君。隊長ってそういう仕事だし……」
「フォローになってねぇえぇぇ!」



わいわいがやがや。周りで諍いを始めるケロロたちに、空気が穏やかに震える。優しいと思う。こんな風に弱ってしまっているわたしに彼らはなんて優しいのだろう。それは人間が無くしたもので、彼らだけが持ってるもの。
あぁ、だからわたしは魅かれたのか。


「みんな、ありがとう」


明日が来なければ作ればいい。
壊す何かが来たならば、壊されないように守ればいい。
世界は壊れるつもりでも、わたしにその気がなければ明日は来るのだ。



「わたしも大好きだよ」


わたしたちを隔てるものは数限りなく存在していて、それは自分の持つ価値観とか置かれた環境とか、離れているのかそうでないのかわからない年の差とか、変えられるはずもない種族の差とか、そういったごちゃごちゃしたものが沢山あるのだけれど。
今日は晴れていて風が気持ちよくて彼らが笑うから、明日の太陽はまた昇るのだとそう思うことにした。






 

 

君の在ることの幸せ

(06.10.01)