彼らは間違ったやり方をした。



心の中で、断定的に呟いたのを聞いたのは誰でもない自分自身と彼女だった。この地球上で誰よりもドロロを理解し、相手のことも理解しているのに立ち入ることのできないその人。親友とか、友情の域をとっくに越してしまったその人は、恋愛感情に陥ることはないけれど誰よりも大切な人だった。
名を、小雪と言う。
ドロロは薄暗い闇の中、地を蹴って高く高く飛ぶ。朝もやの中で、いつもの住宅街がいつもの調子で眠たげに広がっていた。けれどそこにはドロロの日常を構成している人々が決定的に欠けている。


『間違ったこと?』


先ほどの質問に、小雪が質問をした。
もちろん彼女はここにはいない。クルル曹長がネットワークを駆使し、ギロロとタママとドロロが必死に探しているというのに、まったく見つからない。ブラックメンやその一味に連れ去られたままだ。
ドロロは足を止めずに家々の間を飛び交いながら、小雪の問いに答える。彼女と小雪には、電波とは違う意思疎通の方法があるのだ。


「もちろん、小雪殿たちを攫ったことが、でござるよ」
『あたしたち? あたしたちは、そんなに大切だったの』


ドロロは苦笑して、もちろん、と力強く続けた。朝もやが薄く肌に張り付いて、湿り気を帯びた自分の肌は驚くほど生き生きとしている。
情報収集と密偵として、ドロロは多くの任務をこなしてきたが、こんな状況ははじめてだった。侵略すべき星の住人をいつくしみ、あまつさえ人質に取られるなど。
そしてその人質を小隊全員が血眼になって探すはめになるなんて。
考えもしなかった、とドロロは少しだけ嬉しく思う。


『ドロロ、いま、わらった?』
「すまぬでごさる」
『怒ってないよ。まだドロロが笑っていてくれた方がいいもん』


隠さずに答えると予想内の答え。小雪はドロロが笑わなくなったあとのことを、しっかりと理解している。理解しているからこそ、今が危うい状況なのだとわかっている。
それでも駆けつけることができないのだから、彼女にも相当の余裕がないのだろう。
それを思うとドロロは本当に辛くなる。


「本当に、間違ったことをしてくれた」


声に地球に降りてからはほとんど失っていた怒気が含まれた。心からの怒りは、どこか遠くに忘れてきたものだったのに。
地球はいつも忘れていた新鮮で幼い、ありのままの自分思い知らされる。
だから、ドロロは彼らに対して怒っていた。彼女たちを奪ったことは本当に間違いだったのだ。


「小雪殿たちが拙者たちの弱点であることは変わりない。しかし、弱点というのがいつの日も弱みであるとは限らない」


声に出してみればはっきりと理解できた。小雪殿たち、地球の友人は、決して弱点などではなかった。それをどうして、彼女たちを攫ったやつらはわからなかったのだろうか。小隊の目的とそれを阻止するための手段を講じるほどの技術を身につけながら、どうして「それ」を理解できなかったのだろうか。
自分たちが脅威と判断しているものたちが「どうして」現状を甘んじて受け入れているのかを。その真意を。


『ドロロ』
「小雪殿」
『ドロロの言いたいことはわかってるよ。大丈夫』
「小雪殿の考えていることも手に取るように理解できるでござるよ」
『そうだね。わたし達の目的はただひとつ。今が本当であるはずがないから』
「そうでござる。拙者たちは侵略者だが、易々とやられるわけにはいかない」
『あたしたちだって、そんなことのために利用なんてされない』
「そう。そのためには」
『そう。そうさせないためには』


ドロロと小雪は同時に目を瞑る。朝もやを向かえる地球の、小さな島国のどこかで。


「『を探し出すことが先決』」


二人は目を開き、同時に大地を蹴った。誰よりも一般人である彼女が、どうしても彼らには必要であることは誰もがわかっていた。侵略者にとっても、地球人にとっても。
ケロロが何を考えているかはドロロにはわからない。その考えは小雪にも伝わって、だからが傍に居ないことが不安になった。なんてことをしてくれたのだろう。彼女を失うことがどれだけのことか考えなかったなんて信じられない。



本当に、やつらは間違ったことをしてくれた。





















濁流のような世界、






君は何処?




(08.08.31)