ひゅう、と冷たい風が吹いていた。
「…………どうした?」
じぃと見つめていたので居心地が悪かったのか、ギロロが呻くように呟いた。
「おイモ、どう?」
先ほどから待っている彼の手の先のサツマイモ。そのために寒い中でコートを着込んで彼の隣に座っているのだ。ぱちぱちと爆ぜる焚き火の中で焼かれるお芋に心を馳せながら、夏美はふふと笑った。
「…………どうした?やけに嬉しそうだな」
ギロロがやっと顔を和らげて笑った。彼はいつも少しだけ緊張しているから、こういう瞬間は貴重だ。話し方もまともになるし、おたおたと挙動不審になることもない。それはすぐに消えてしまうことも多いけれど、彼が少しだけ目線を同じくする瞬間がとても心地よかった。
「ギロロは、凄いよね」
軍人の趣味が焼き芋なんて、誰が聞いてもおかしいに違いない。穏やかに火の中を突きながら、ギロロは自分でもおかしいことに気づいているように笑った。
「…………ギロロは焼き芋屋さんになればいいのに」
イモに集中し始めたギロロは「そうだな」と生返事をしながら、ひょいと黒い物体を取りだした。それを熱そうに新聞紙で手際よく巻きながら、彼はそれを差し出す。
「熱いぞ。気をつけろ」
新聞紙を何枚も通しながら伝わる熱は彼の言ったとおり気をつけなければいけないものだった。焦げた皮に手をかけた瞬間に「アツッ」と顔をしかめる。指先がほんの少し赤くなった。
「まったく…………気をつけろと言っただろう」
赤くなった方の指を出すと、彼はいつも銃を見るような目つきでしげしげと眺めたあと「大丈夫だろう」と笑った。そのとき触れた指先から、知らない熱が頬にのぼる。いつもならば彼が赤い顔をもっと赤くするというのに、何故だか今日は夏美の顔がほてりだす。
「どうした?顔が赤いぞ」
風邪でも引いたら大変だろう、と彼がいつになく落ち着いた声で言う。その声に夏美は「そうね」と言いながら、なんだかもったいないような気がしてしまって腰が浮かなかった。
「ねぇ、ギロロも中に入れば?寒いでしょ」
拗ねたように夏美がそっぽを向く。
「それこそ意味がわからんぞ」
あんまりにもギロロが落ち着いているから、悔しくなって夏美は傍にあったギロロの手をぎゅうと握った。握った瞬間にギロロの顔色が変わる。赤くなり青くなり、また真っ赤になって湯気が出る。一連の変化がおさまって、湯気の出る音が一定になるのを聞きながら夏美はようやく満足して笑った。
「ななななな、夏美?!」
握った手からも彼の体温が上昇するのがわかって、心から楽しくなってくる。
「いいじゃない。たまには」
ぐだぐだ言い出す彼に、握りしめる手を弱めたり強めたりしながら問う。人とは違う肌の弾力と触り心地、それと汗ばむ感触。ギロロはしばらく「うー」だとか「あー」だとか唸っていたが、ようやく観念したように落ち着いた。
「…………」
少しだけ高いけれどいつもの声。ようやく理性を取り戻した彼が、不意に手を握り返してきた。意外に力強くて今度はこちらが慌てる番だ。
「ギ、ギロロ?!」
少しだけ俯いた顔が、あがる。握った手を恥ずかしそうに見ながら、ギロロは笑った。
「悪くないな…………たまには」
握られた手とギロロと焚き火と、いったいどれに対してなのかわからない。けれど夏美の頬は彼よりも赤くなって、どんどんどんどん目が回ってく。
「た、たまにはよ!たまには!!」
あいてる方の手で顔を覆いながら、夏美は叫ぶ。ギロロも相槌を打ちながら、顔を赤らめていく。なんだかわけがわからなくなった庭先の会話で、置いてきぼりになったサツマイモだけが二人を見ていた。 |
いとしいあなたに星はめぐる
(07.03.11)
ダリア様に捧げます!!