「…………君は僕に咬み殺されたいの」


応接室のソファに座ったまま、僕はの首筋にトンファーをつきつける。は呼び出された理由も僕の怒りもまるで意味がわからないようで、先ほどから目を白黒させるばかりだ。なによりも呼び出されてのこのここの部屋にくるのだから、まったくもってわかっていない。


「あ、の、雲雀さん」
「黙って」


言い訳なんて聞きたくなかったし、なによりきっと最初は疑問が飛び出してくるはずだ。
なんで怒っているんですか。
彼女の言いそうな台詞なんて目に見えている。はまっすぐにそうやって尋ねるんだ。僕が怯むほどの綺麗な目で、一心に体も心もすべて傾けてくる。
だから、僕は彼女に勝手に喋らせてはいけない。


「僕の質問に答えて。………君は、今までどこに居たの」
「えぇと、綱吉くんたちと教室に…………」
「僕は群れるなって言ったよね」


素早く彼女の言葉を制せば、やっと理解したのかがちょっと驚いた顔をした。
僕は何度だって言ったはずだ。群れる必要などないことを、彼女に教えたはずだ。それが僕の琴線に触れることも、は理解しているはずなのに。


「ごめんなさい」


は、小さく謝った。それから、しっかりと頭をふる。


「でも、わたしは雲雀さんのように強くはなれないし…………綱吉君たちは大事な友達です」
「それは僕よりもってこと」


この学校で面と向かって立ち向かってくる女の子は、くらいだ。だから僕はムキになっていたのかもしれない。自分が言った意味など理解せずに、にそう尋ねていた。
あとから気付けばなんて弱々しくて気色の悪い台詞だろう。それでもは、少し困ったように笑っただけだった。僕の心から零れた本音に、きちんと向き合ってくれた。


「優劣なんて関係なく、わたしは雲雀さんが大事です」


まっすぐに、あまりにも言葉通りの重さを持っての声は僕に届く。
その素直さにいつのまにかトンファーを持った右腕が下がりきっていた。諦めたのか呆れたのか、もうすでに自分でも判断しかねたけれど、たぶんに負けたんだろう。
誰にも認めないけれど、はいつだって僕の怒りを溶かしてどこかにやってしまう。


「…………次」
「はい」
「次、僕の視界から消えたら探し出して咬み殺すよ」


そうして出来やしない無意味な強がりを吐き出す羽目になる。彼女への負けを認めたくなくて、そうやって虚勢を張るしかない。けれどはいつだって、僕をそのまま受け止めてしまう。


「それは、難しい言いつけですね」


きっと、は僕の言いつけを破るだろう。また綱吉たちと笑いあって輪の中にいるに違いない。そうして苛々した僕が彼らに向かっていくのを、変わらぬ調子で見つめるのだろう。ちっともすまないと思っていない調子で謝って、僕をまっすぐに見つめてくれる。
面白くない事態だ。こんな、まるでぬるま湯のような平和な日常は面白くない。
けれどそんなぬるま湯のような未来を本気で嫌っていない自分がいるのが、一番不愉快なのだ。
















青春トワイライト





2012.0101