お正月と言ったら初詣。そう主張したボリスに連れられて、は近くの神社に来ていた。参拝客は多くないが、きちんと巫女さんのいる神社だ。厳かな雰囲気の中で、振袖を着ていると背筋が伸びる気がする。振袖を着ることはボリスが一番譲らなかった部分だ。
俺のために着てほしいと言われれば、着ないわけにはいかないだろう。


「あ、。おみくじあるみたいだぜ?」


自分は普段着のボリスが、指さす。境内にマゼンタ色の目に痛いピンク猫がいるという不可思議な状況に神主さんはあんぐりと口を開けているけれど見ないふりをした。これは猫耳なんですと主張しても、これは本当に耳なんですと主張しても、わたしがイタイ人になることは目に見えている。当の本人はさすがに上着を着ているが、あの縞々のファーだけは離さないのだから余計に目を引いてしまう。今日くらい、そのファー貸してくれたらよかったのに。


「じゃあ、引いてみようかな」
「おぅ。いいの引くといいな」


二人で巫女さんにお金を渡し、クジを引く。可愛らしい巫女さんの目は、ずっと動くボリスの耳に集中していた。


「おっ、大吉! 俺、ついてるかも〜」
「……………」
「何事もやすく叶う、だって。いいことばっかじゃん。………って、どったの、あんた」


あけた瞬間に、ぴしりと固まったを見てボリスが引きつる。巫女のお姉さんも何事かと思っているようだ。けれど、にとってはそれどころではない。


「………大凶」
「え? うっわー。俺、大凶はじめて見た」
「私だって初めてだよ………! ありえない! 新年早々、大凶だなんて!」


わなわなと震えるは、すでに中身など見ていない。ただ『大凶』と書かれた結果にしか目が向いていないのだ。ボリスが宥めるようにの頭をなでるが、は心底落ち込んでぶつぶつと呟いている。


「ありえない。新年早々、こんなことって……」
「まぁまぁ、それ以上悪くなりようねーじゃん」
「これ以上はないよ! というか、引いたこと自体が大凶だよ。もう、ほんと、ありえない」


うぅ、と項垂れる。正直ここまで落ち込まれるとは予想外で、ボリスは頭を掻くしかない。けれど、は突然、ばっと顔をあげた。


「もう一回! もう一回引く!」
「はぁ、もう一回?」
「そう! 引くからお金出して!」
「しかも俺の金?!」


ボリスがもっともな突っ込みをいれるが、は聞き入れない。


「だって、また自分でお金出して悪かったら落ち込みようがない!」
「俺の金だったら俺の運てことじゃん!」
「だ、だって」


そのまま泣きそうなに、ボリスは突っ込みすぎたかと我に返る。
けれどこれでは、大吉でも引かない限りはここから動かないだろう。どうしたものかと考えたボリスが、ふといいことを思いついた。


「よし。俺が出してやってもいーよ」
「ホント?!」
「ホントホント。でも、そのかわり」


ボリスの細い指が、の唇をトンと軽くつつく。


「大吉をひくまで、は俺にキスすること。もちろん自分から」
「え」
「なんだよ。いいのを引きたいんだろ?」


にやにやと笑うボリスは本気だった。は意地になったことを後悔する。むしろなぜあんなに子供のようなことを言ってしまったか、わからない。
けれど撤回するよりも早く、ボリスは巫女さんにお金を渡していた。


「さ、。引きなよ。大吉だったらしなくていいんだしさ」
「ボ、ボリス」
「大吉ひくまでキスしてもらえるなんて、俺ってやっぱり大吉ひくだけあるなぁ」


はクジの箱に手を伸ばせない。目の前の箱に大吉が入っているとは到底思えなくなってしまった。こんな心理状態でひいてはいつまでたっても大吉なんて引けないだろう。
目の前の彼氏をどうやって説得するか。わたしの大凶は、すでに始まっていたのかもしれない。














六、 クジが気に入らなくて、リベンジする。