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お正月ってこんなに大変だったろうか。 わたしはきちんと振袖を着こんで、考える。元旦の早朝はとても清々しく晴れていた。 大晦日からわたしは働きどうしだ。なぜならユリウスは大晦日もお正月も、まったくの不参加を決め込んでいた。作業部屋に引きこもり、時間の許す限り仕事をしようとしていたのだ。 もちろんわたしはそんなこと許さなかった。ユリウスを仕事部屋から引き離し、こたつに座らせて紅白歌合戦を一緒に見た。0時を過ぎればきちんと正座をして頭を下げて挨拶を述べたし、初日の出を一緒に見たいからと早起きだってさせた。そうして初詣に行こうと誘い、振袖が着られるまでは仕事をしていてもらった。彼は本当にワーカーホリックすぎる。 「……寒い。なぜこんな日に外にでなくていけないんだ」 「元旦だから。答えは簡単でしょ。それに時間をずらすと混雑するし」 だから早朝を選んだのだ。0時はもっとも混むだろうと思えたし、昼間になれば親子連れだって増えるだろう。 ユリウスはまだ納得できないような顔で、それでも隣を歩いてくれている。文句を言っても結局のところ拒絶されないのだ。 この男を外に連れ出すのにも大変な労力がいったけれど、ユリウスと出かけたいのだから仕方のないことだともわかっている。 「ね、晴れ着似合う?」 「…………あぁ」 「じゃあ、着てきた甲斐があったな」 ふふ、と笑うとユリウスは困った顔になる。 「私などより褒めてくれる奴らなど沢山いるだろう。それこそ、語彙の限りに褒めちぎってくれる奴らになぜ聞かなかったんだ」 「みんなは聞く前に褒めてくれたから。でも、ユリウスは聞かないと答えてくれないでしょう?」 「…………そうか」 自分から話題を振ったくせにむすっとした顔になるユリウス。本当に面倒な人だ。 でも、だからわたしは安心できる。 「あ、おみくじ」 商売繁盛の熊手だけは買わせないようにして――これ以上彼の仕事が増えたらたまらない――わたしはおまもりなどが並ぶ場所にユリウスを引っ張る。そこにはおみくじが置かれていた。本格的なものではなさそうだけれど、だからぴったりとくるような。 「ね、引いてみない?」 「私はいい。……引きたいならお前だけで引けばいい」 先ほどのことをまだ引きずっているのか、ユリウスは仏頂面のままだ。 わたしは仕方がないので、一人分のお金を払ってクジを引いた。 「んー……半吉かぁ」 なんともまぁ、微妙なクジだ。 そもそも何の半分かわからない。中吉と何が違うのか、それとも吉の半分なのか。 「ほらみろ、おみくじなんてそんなものだぞ」 ユリウスにいたってはもう興味のかけらもないらしい。 わたしはそれでも今年の運勢を占うべく、しっかりと中身を読み上げていた。勉学、引っ越し、病気、金運、商売、縁談。次々に読み上げていき、なるほど教訓ばかりだと確認する。それでも何かしらの期待を込めて毎年引いてしまうのだけれど。 おみくじを括り付け振り返れば、寒そうにコートに顎を沈めたユリウスが待っている。なんだかんだといっても、振り返ればちゃんと居てくれる人。 急いで駆け寄れば、ユリウスは怪訝そうな顔をしていた。 「なんだ、いいことでもあったのか?」 どうやら笑いながら走っていたようだ。わたしは慌てて頬に手をあてながら、しっかりと微笑んでいる自分を確認する。 「いいことは………ないけれど、やっぱりおみくじはおみくじだなって」 「さっきからそう言ってるだろう。悪いことが書いてあっても、それは常日頃気を付けていればいい類いのものだ」 「ううん、悪いことじゃなくってね」 わたしは笑ってしまうのを止められない。違うのだ。言いたいことはそうではない。 「さっきのおみくじに、『待ち人は来ず』ってあったの。変でしょう? だって、振り返ればユリウスがちゃんといるんだもの。だから思わず笑っちゃったの」 わたしが発言した途端に、ユリウスは固まってしまった。もちろん真っ赤になって。 おみくじは、おみくじだ。 何が出ようと一緒にいることに変わりはない。わたしはコートに突っ込まれたユリウスの手を追いかけて、自分の手も滑り込ませる。冷たいと嫌がられたけれど、しっかりと握ってくれる手は優しい。 帰ったらユリウスと一緒にテレビを見て、お正月らしくダラダラしよう。お雑煮を食べて一緒にお昼寝をしたら、きっと幸せに違いない。 |
八、 待ち人来ずの運勢に、「もう来ているのに……」とつぶやく。