その日は朝から寒くてわたしは凍えながら目を覚ました。両足は慢性的な冷え性のせいで、自分でもわかるほど冷たい。靴下を履いて寝てもこうなのだから、半分諦めている。
「起きたのか、」
寝ぼけたまま、返事をする。起きましたよ、ついさっき。けれどまだ眠っていたいんだけれど、その時間はあるかしら。
答える声は、無骨な手触りさえ感じられるほど愛想がない。
「起きて食事をとれ。お前の生活スタイルは不規則すぎる」
ベッドの中から見る彼は、とても呆れた顔してため息をつく。いつかギロロが同じコトを、黄色い彼の後輩に説教しているところを見たことがある。それと似ていて、わたしは黄色い彼に同情した。五月蝿い人でしょう。この人は。
「何を笑っている?」
近づく気配、おまけに額に触れてくる。ほんのりと温かい感触に、わたしはもっと微笑んでしまう。
なんでもないの。ちょっとした思い出し笑い。
クスクスと笑うと、彼も困ったように微笑んだ。そのときに八重歯が覗いて、それがとても綺麗だった。
「手を貸すか?まだ傷は癒えていないんだろう」
半分上半身を起こしたところで、彼が心配そうな声を出す。わたしの肩から腹にかけての包帯が彼の目には痛々しく映るらしい。乙女の柔肌に残ってしまう傷に、彼は一番嘆いてくれた。わたしは笑うのをやめて、いいのよ軍人だものと、わからないくらい声を落とした。
結局肩を借りて、わたしはやっとの思いで食事を終えた。ありがとうと伝えると、彼は少しだけ赤くなる。ギロロがこの部屋に来てくれたのは、通算で5回目になる。その一度として、わたしがベッドから自力で起き上がれた試しはない。
「ガルルが見舞いに来たいと言っていた」
帰る間際にそう言って、彼はわたしの瞳を見る。わたしは微笑んで、どうぞと答えた。
ガルル中尉はお忙しいんでしょう、無理はなさらないでくださいって伝えてね。
負傷した部下らしく、わたしは答えた。ガルル中尉の指揮する戦場においてこの傷は負ったのだけれど、その責任さえ彼が負うのは間違っている気がする。
ギロロは礼を言って、部屋を出る。この部屋は病院らしく白を基調としているから、わたしの心はどんどん空白が大きくなる。不安ではなく、空虚が襲い来る毎日。
明日生きられたら、ひとりで起きてみようかな。呟いて、わたしは白が恐ろしいから目を閉じた。
|