底冷えするような瞳の色









わたしの上司が本当に見舞いにきたのはひどくだるい午後だった。頭痛を抑えながら真面目な上司と向かい合うことにひどく体力を消耗してしまって、わたしはときどき自分でもわからないくらいのため息をつく。
もう来て下さらなくて結構です。
だからこんな不遜な言葉さえも言えたのだろう。機嫌が悪かったからだ。ガルル中尉は眉をひそめたけれど、叱ることはなかった。


「なぜ?」


無知を装うこの人が、ひどく憎らしい。優秀であり部下思いなガルル中尉は、わたしの回復を心底願っているような口調でそう聞いてくる。馬鹿みたいだ。化かしあいは御免なのに。
わたしは自分からため息をついた。苛々して、頭の中で数本神経がやられる音が軽快にひびく。わたしのことを誰よりも知らない上司に、わたしのことを熟知しているわたしが、これからのことを教えることが億劫だった。


「君は、自分が助からないと思っているのかもしれないが」


話しはじめたガルル中尉は、不機嫌なわたしをひたりと見据える。


「君にその意思があるのなら、助かる道があるだろう」


わたしは口元だけで笑ってやる。
そんなこと知っていますよ。助かる道も、生きていく意味も、それからの生活もわたしには用意されていることくらい。でもそれは何か可笑しいでしょう。これだけの傷を負って、それでも生き残るなんて世界に反してる。わたしは死ぬべきだからそれ相応の傷を負った。そう考えているんです。だから、中尉が責任を感じる必要はありません。もう忘れてください。


「…………君はひどく、頑固だな」


ひどく、の部分に力が込められる。わたしは笑ったまま、皮肉をこめて礼を言う。


「なら、私も勝手にさせてもらう」


ガルル中尉が、綺麗に口角をあげて笑った。その先に覗いた八重歯にギロロを思い出す。けれどぞくりとする悪寒しか、彼には感じられなかった。