あなたは何しに来たんですか。
わたしの質問に、先ほどから彼は眉一つ動かさずに答え続ける。
「お前が、死なないよウに…………見張ってル。」
見張っているだけで死なないんだったら、昨日急患で運ばれて集中治療室に入ってるお隣さんのところに行って来たらどうです?わたしの部屋から出てってください。
「わかっ…………タ」
あぁ、だからって屋根裏はやめて!気が散ってしょうがないし、上から見られるってことは寝転がっていれば嫌でも目にはいるってことじゃないですか。
「注文ガ」
多くないです。これは普通の、一般患者の願いです。静かにさせてくださいよ。ガルル中尉に何を吹き込まれたか知りませんけれど、わたしは死ぬのを待っているのであって自分から死ぬようなマネはとってません。だから、
「嘘、ダな」
あまりにもはっきりと言い切ってくるから、わたしは口をつぐんだ。ケロロとあった出来事を、これ以上自分自身で否定するのは嫌だった。だから、その代わりに無表情なゾルルに笑ってやる。最近、わたしはこの笑いかたが板についてきた。自虐的な、他人の勘に触る笑い声。これの欠点は自分でも嫌気がさすというところだ。
「お前…………」
なんですか。初対面でこう言うのも何なんですけれど、あなたは病院が似合いませんね。とても不釣合いな気がする。白い壁が気にならなくなる。浮いてるって意味です。
「お前ハ…………」
しかも、無言で入室してくるし。仮にも女性の病室に入ってくるんですからもっと配慮があってもいいと思うんですけれど。それともガルル中尉からそんな命令が出ているんですか。わたしは生意気だから、女として接しなくてもいいとか。
「お前ハ、五月蝿い」
声が鋭利な刃物になって、わたしの喉が遮断された。一瞬の間にゾルル兵長が覆いかぶさり、彼の両手が頭の両側に乱暴に落下する。ひどく重苦しい声と同様に、彼の瞳はひどく重苦しい色だ。わたしは鼻がつきそうなくらい近くにいる彼に、驚いて頭が真っ白になる。ゾルル兵長は顔色さえ変えない。
「女トして、扱えというのナら…………襲っテ、やろうカ」
目元も口元も、口調も雰囲気も本気だったのでわたしは無意識に首を振った。
「なら、黙ってロ」
相変わらずの至近距離で、ゾルル兵長は要求する。けれど退いて欲しいとか、近すぎるとか、わたしからの要求は却下された。膨れて抗議すれば、彼はそこで始めて目元だけを緩める。
「お前かラは…………死人の、匂いガ…………しナい」
そのまま首元に顔をうずめてくる。わたしは短く、怯えと羞恥の混じった悲鳴をあげた。鉄色の顔半分のせいで少しひやりとして、けれどぬくもりだけは感じる唇が触れるとくすぐったい。目を瞑っては負けになると思って、ゾルル兵長が身体を起こしてベッドから降りるまで目を見開いてやった。それからゆっくり、ことさら力を込めてわたしは言う。
変態!
わからないくらいに、ゾルル兵長が目元と口元を和らげた。
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